真顔の友人。一緒に楽しんでると思ってたのにそうでもなかったようだ。「あと1回、チャンスをやる。これで最後だ」

 どうやら友人のお母さんも階下で痺れをきらしている様子。つーか、お母さんに話すなよ。

 2まで回すと……突然の便意。お昼に食べたサラダ巻がよくなかったか。「ウンコ、したくなっちゃった……してきていい?」「おい! お前の人生だぞ!(怒)」。大袈裟。でもその時は本気。「だよな!」。2まで回しきった。戻るダイヤル。「はい、もしもし……」。あ、出た。ウンコではなく彼女が。必死で括約筋を締める私。腹を突き上げる痛みが物凄いことになってきた。カニかまが、サラダ巻のカニかまが古かったにちがいない。ダメだ……。

「あーっ! 好きですっ! 付き合ってください! じゃっ!」。ガチャン! ダダダーッ! ……ジャーッ! 名前も告げずに、雑に告白して、すぐに電話切って、階段駆け下りて、ウンコして流した。水流に吸い込まれていくウンコと恋。

「……なにしてんだよ?」と呆れ顔の友人。「ウンコだよ!」

 逆ギレの私。「ウンコ先にしとけばよかったのに、ウンコさせないからこんなことになっちゃったんじゃんか! スゲー腹痛くなってさ、洩らしちゃうよりいーだろ!? もーいい! もーいい! もーいいよっ!」。ちゃんとは覚えてないが、こんなことを叫んで友人と喧嘩別れして、家で泣いた。

 翌日、その女の子の周囲は「昨日、ものすごく焦った知らない人に電話で告白された」話で盛り上がっていたっけな。何が言いたいかと言うと、ハッピー・バレンタイン・ボーイズ&ガールズ。

週刊朝日  2018年3月2日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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