それにしても、北朝鮮訪問の前提とした「条件」とは何なのか。おそらくそれは、米朝対話の実現だろう。

 だが、トランプ大統領が北朝鮮と対話を行う可能性はあるのか。日本政府は、その可能性はない、と考えている。米朝対話の可能性がないときに、文大統領はどうするのか。

 その前に、実は3月下旬にも米韓合同軍事演習が実現されることになっているのだが、北朝鮮は、韓国が合同軍事演習を拒むことを強く求めている。しかし、日本政府は文大統領には、合同軍事演習を拒む力も、度胸もないだろう、とみている。

 問題は、合同軍事演習後に、文大統領が北朝鮮に行くかどうか、だ。

 ところが、11日付のワシントン・ポストが、ペンス副大統領が「北朝鮮が対話を望むならば、米国は対話する」と語った、と報じた。もっとも、ペンス氏は14日になって発言を撤回している。また、同じ14日に、安倍晋三首相はトランプ大統領と電話会談をして、「核・ミサイル開発の放棄を前提としない米朝対話はない」と確認し合っている。

 だが私は、米朝対話という「条件」が整わなくても、文大統領は北朝鮮に行くのではないか、と考えている。南北融和こそが、文氏の政治家としての根本課題であるからだ。そして、南北首脳が会談した場合、トランプ氏の米国はどう対応するのだろうか。米国が北朝鮮に武力行使する、という見方が少なくないが、私は、米朝緊張関係が続く、と考えている。率直に言えば、それがトランプ氏にとっても、安倍首相にとっても、そして中国の習近平国家主席にとっても望ましいからである。

週刊朝日  2018年3月2日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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