すべて玄関先での立ち話です。私が、納得するかは別問題なので……、と話しましたが、佳代さんは笑いを含んだ口調でこう返してきました。

「ごめんなさい。納得と言うか、あの一応、答えはこういうことですので」。私も生活に困っていますから、僕の懐からお金がそちらに移ったのは間違いないことですし、一方的に婚約破棄となりましたが、一応は理由があって婚約を解消したことです、と説明しました。しかし彼女は「でも理由がはっきりしない」、と婚約解消の理由にこだわり続けました。この2年間、金銭的な無心ばかりを私に続け、出かけるときのアッシー代わりにし続けたことは思いあたらなかったのでしょうか。

「でも、返す意思はない、と?」と私が佳代さんにあらためて確認をすると、圭君が割り込むように口を挟んできました。

「あっ、すみません。返すというか、贈与を受けていると認識しておりますので」、と。

 非常にはっきりとした口調でした。私は、この400万円を超えるお金を、「差し上げます」と言った覚えは一度もないこと、婚約中とはいえ所帯は別々だからお金の貸し借りという概念は生ずる、と必死に訴えました。

 しかし、佳代さんは正当性を主張し、自身の窮状をこう訴えました。

「『最初から、返していただくつもりはございません』とおっしゃってあの時にくださったので一応、一方的な婚約破棄というのを含めましてこちらも納得させていただいたんです」と。

 私が婚約破棄をしたために、将来が不安定になると繰り返すばかりでした。

 私を好きだったという言葉は、2年間の婚約期間の間も、このときも一度も聞くことはできませんでした。

 私は弁護士に相談してから返事する、と話を打ち切りました。話題を変えようと、圭さんの就職活動について尋ねました。圭君が「なかなか難しいですね」と答えたので、励まそうと、「圭君ならば、いいところへ就職するんじゃないの? 圭君ならば大丈夫」と声をかけました。すると佳代さんは「圭は大丈夫ですが、私には関係ないことです。圭の人生なので」と慌てたように遮ってきました。まるで圭さんが返済とは無関係だと強調しているようにも聞こえます。

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「他に求婚してくれた人が…」