■ケース2 “争続”に発展 兄妹に深い亀裂

長男「父の世話も介護もしてきたのだから、土地は当然俺のモノ」
長女「本来、半分はもらえるはず。不公平だ。兄さんは欲張り」

 幼いころ、2人は仲良しだった。しかし、長女が嫁いでからは、徐々に疎遠になり、直接顔を合わせるのは、5年前の母の葬儀以来だ。

 父は自分の財産のことを子どもたちに語ることはなかった。遺言も残していない。長男は父と一緒に暮らしていても、死後のことを聞くのは気がひけていた。

 そんな事情もあって、預金通帳や印鑑などを捜し出すのには時間がかかった。土地の価値もよくわかっていなかった。調べたところ資産は、土地が5千万円、現預金が500万円の計5500万円あることがわかった。基礎控除4200万円(3千万円+法定相続人2人×600万円)を超えており、法定相続分で長男と長女が2分の1ずつ分けると、相続税はそれぞれ65万円ずつ(650万円×10%)かかる計算だ。

 長男は自分名義の家を建てていて、土地は全て引き継ぐのが当然だと思っていた。父も「家は長男が継ぐもの」と考えていたはずだ。土地をすぐに売ろうとしても買いたたかれるし、自分の住む家がなくなってしまう。嫁いだ妹も納得してくれるはずだと信じていた。

 しかし、長女は反発した。長男と同じだけ愛情をそそがれてきたという思いは強い。父が長男に有利な相続を考えていたとは思えなかった。法定相続分である資産の半分をもらう権利があると主張した。

 話し合いは平行線をたどり、相続税の申告・納付期限の10カ月では結論が出なかった。そのため遺産は「未分割」のまま双方とも、いったん65万円の相続税を支払うことになった。宅地面積が330平方メートルまでなら相続税を8割引きできる「小規模宅地等の特例」は適用できず、いったん全額を支払うしかない。これから家庭裁判所で調停に臨むが、最後は審判で決着をつけることになりそうだ。

 仲良しだった兄妹が争うことになったのは、親子で事前に話し合わず、遺言も残さなかったためだ。準備をしていないと、“争続”はどの家庭にも起こりうる。(本誌取材班)

週刊朝日 2018年2月23日号