北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
民主主義なの? 呪いなの?(※写真はイメージ)民主主義なの? 呪いなの?(※写真はイメージ)
 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「安倍晋三首相の在職日数」について。

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 2月5日の衆議院予算委員会で希望の党の玉木雄一郎議員が「総理今、63歳ですよね。65歳になったらどのくらい自分が年金もらえるか計算したことあります?」と聞いたとき、安倍さんはにたにた笑いながらこう答えていた。

「まだ計算しておりません」

 野田聖子議員が安倍さんの後ろ姿に向かって「がんばって!」な調子で微笑んでいた。ここ、にたにたするとこでも、微笑むとこでもないでしょう。今の時代、20代ですら計算してる。それでもそれは今の計算方法であって、50年後にもらえるのか、貯金はいくら必要か、不安は尽きない。

 私自身、社員全員の社会保険料が毎月ゴソッと通帳から引き落とされるのを見る度に、不安が深まる。決して安い金額ではない。もし老後に経済的不安や医療の不安を持たずに生きられる社会ならば、もっと払ってもいい。だけれど、自分の年金を一度も計算したことない人たちの集まる政権で、何を期待できるというのだろう。

 それなのにいったい何故? 安倍さんは、こんなにも長い間、総理でいられるのだろう。聞けば、2019年8月24日には戦後歴代1位の長さになるとか。しかもその年の11月20日まで務めれば、明治維新以来のトップになる。その場合、2位桂太郎、3位佐藤栄作、4位伊藤博文。見事に全員長州・山口だ。日本って、いまだに明治維新の派閥が続いているのかもしれない。いったい何の呪いだ。

 
 安倍さんも、きっとナンバー1を意識されていることだろう。政策や人柄によってではなく、時間で歴史に名を確実に残すことが目標ならば、コツコツと権力を振るいつづけるだろう。自分に都合が悪いこと(森友・加計学園関係)を国会で追及されれば「朝日新聞のせい」とか「籠池さんは嘘八百」などと朝日新聞と籠池さんへの誹謗中傷で返す方法にも年季が入ってきた。

 それでも、籠池さんを「嘘八百」と言うのを聞き、ぞっとした。あの夫妻がどれほど安倍夫妻を慕い愛し、応援してきたことか。しかも、安倍さんが一番苦しんでいたはずの第1次内閣のときから支えてきた人だ。その人は夫婦共、今、声を奪われ、自由を奪われ、半年以上拘束され、面会も許されず、独房で暮らしている。高齢だというのに、まだ何の罪も確定していないというのに。

 安倍さんは、籠池さんをはじめ多くの右寄りの人々に愛され支えられてきた。そしてその愛には一定の応えが返ってきたのだろう。でも、いざ、その愛が“不都合な真実”になった場合は、徹底的に排除が始まる。もちろん安倍さんが直接手を下しているわけじゃない。合法的に、排除が何かの力で始まっていく。でもそれって何? 民主主義なの? 呪いなの?

 惜しみなく与えた愛が裏切られたとき、愛は呪いに変わる。憎しみなんてレベルじゃないはずだ。呪術者大活躍の中世感、暗躍感がうごめく安倍さんの人間関係。これがあと2年持つとは考えたくない。

週刊朝日 2018年2月23日号

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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