久間:私も現職のとき、米兵犯罪の容疑者の引き渡し条項とか、低空飛行についても日本の航空法を守らせようとか、環境問題などを改善させるということで地位協定を変更することを考えました。日本と米国の間できちんと条文ができておればよかったのですが、地位協定は日米安保条約に基づいた制度であり、米国の上院下院の同意なくして変更できないのです。共和党も民主党も説得するのはいかに難しいか。10年、20年かけても実現できないかもしれない。

木村:同じ敗戦国のドイツの地位協定(NATO軍補足協定)では、刑法や航空法など国内法を米軍にも遵守させていますが、なぜ、日本はドイツのような対応が取れないのでしょうか。

孫崎:日本は米軍の占領があり、日本政府は基本的に米軍に従うということで成り立ってきました。戦後の日本の体制は、米国に言われたことを忠実に実施することで政権を維持してきたという歴史的な経緯があるのです。ところがドイツは、米国、イギリス、フランス、ソ連の連合国4カ国に分割占領された。この4カ国が合意しなければ国家ができなかったのです。

木村:米国の独断では決められない。

孫崎:そう。それはある意味において公平で、日本のように米国に追随していなければならないということはない。4カ国に対して、理念的にしっかりとした交渉力を持って外交を進めることができたのです。当初は、ドイツもやはり連合国にかなり不利な条件を強いられてきました。しかし、ドイツは何回も粘り強く交渉し、特に冷戦後は大々的に地位協定を変革することができたのです。

久間:学者やメディアはよくドイツと比較しますが、同じレベルでは議論ができないのです。日本は事実上、米国に占領された国なんです。進駐軍がおったわけです。そのなかで安保条約が作られたのです。

孫崎:やはり、日本も地位協定を変えていくために、国民運動を起こして政府を後押しする形で交渉していくべきだと思います。

久間:先ほども言ったように、旧安保から70年近くが経過して、このまま踏襲しておくのがいいのか、安保条約そのものがいるのかいらないのか、それを含めて議論しなければなりません。それで初めて地位協定の改定について検討することができるのです。

木村:久間さんの地位協定を変えるためには、安保から変えないといけないとのご指摘はよくわかりました。対米自立を主張する政治家が、これから出てきたら米国も非常に困ることになるでしょう。

孫崎:そういう時代の変化を見ながら、米国としっかり交渉しようという政治家が今の自民党にいますか?

久間:いやあ、いないだろうねえ。

孫崎:そうでしょう。そこが問題なんですよ。

(構成 本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2018年2月16日号