アルバムを締めくくる「20 サムシング」では、20代の女の子に“頑張って”とエールを送り、“20代が終わってほしくない”と歌っているのがいじらしい。

 つい先頃に発表された第60回グラミー賞でも、SZAに注目していた。

 R&Bシンガーのブルーノ・マーズがレコード、楽曲、アルバムの主要3部門を含む6部門で最優秀賞を獲得。ラッパーのケンドリック・ラマーはラップ部門の楽曲、アルバムなど5部門で最優秀賞に。

 ノミネート段階では、これまでに比べてヒップ・ホップ勢と黒人、ラテン系のアーティストなど多様な顔ぶれになり、それぞれに成果を収めたが、女性アーティストについて言えば、主要部門では最優秀新人賞のカナダのアレッシア・カーラのみ。SZAの受賞もなかった。

『Ctrl』を聞くたびに思い起こすのは、10代の心情を率直に表現した宇多田ヒカルのデビュー・アルバム『First Love』だ。SZAは27歳なので、世代こそ違うが、2人のデビュー作にはなにかしら共通するものがある。

 トラップ、アンビエントなスタイル、ネオ・ソウル風など、音楽的なバラエティーの豊かさ、シンプルなサウンドの心地よさも見逃せないが、キュートな歌声、歌詞世界の面白さにSZAへの興味は尽きない。これからが楽しみな存在だ。(音楽評論家・小倉エージ)

●『Ctrl』(RCA/ソニー・ミュージック SICP-5661)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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