香害はときに健康被害をもたらすことさえある。香料などの化学物質によって起こる健康被害「化学物質過敏症」だ。09年に病名登録された比較的新しい病気で、冒頭の香害110番では、相談の半数は化学物質過敏症の診断を受けていた。

「香りは好みの問題といわれますが、化学物質過敏症に関してはそういったレベルの問題ではない」

 と杉浦さんは言う。

 香りつき洗剤や柔軟剤の普及で、化学物質過敏症の疑いのある人が増えていると感じているのが、北海道で化学物質過敏症の診療を行う渡辺一彦さん(渡辺一彦小児科医院院長)だ。「1990年代後半のシックハウス症候群以来の患者数」と話す。

「4~5年ほど前まで新患は月に1~2人でしたが、香りブームが始まってからは週に1人以上は新患が来ています」(渡辺さん)

 患者を支援するNPO法人化学物質過敏症支援センター事務局長の広田しのぶさんは、「突然発症するというよりも、気がついたら症状が出ていたという例が多い」と話す。

「生活のなかで、体内に少しずつ化学物質が蓄積し、コップの水があふれるように、その人の限界値を超えると発症する。そのきっかけが、自分や他人がつけている香りであることが少なくないのです」(広田さん)

 主な症状には、皮膚のヒリヒリ感や皮膚炎、目がチカチカする、せき込みや鼻水、くしゃみが止まらないなどの「皮膚粘膜症状」と、頭痛やめまい、動悸、疲労感などの「精神神経症状」がある。進行すると、集中力や記憶力の低下などもみられる。また、一度発症すると、反応する化学物質の種類が広がり、より低濃度でも症状が起こり始める。化学物質過敏症の研究者でもある坂部さん(前出)は言う。

「この病気は、脳の一部である嗅神経が化学物質にさらされることがきっかけで起こる脳の機能障害。香料が批判の対象になりがちですが、無香料でも化学物質が使われていれば、症状は現れます」

 杉浦さんも「化学物質の総量が減らないと、解決しない問題」と訴える。

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