傷物や不良品は「ウロコ」だ。魚の鱗はすぐに剥がれ落ちるから、というのが語源らしい。ウロコはよく、人間にも適用されていた。

「あの課長、ウロコだよね」と言えば、ダメな上司という意味である。

 客のことは「前主」。ろくでもない客のことは、ウロコとくっつけて「ウロ前」と呼んでいた。

 隠語を使えば、横柄な客の目の前で、

「ウロ前ですね」

 などと言い合って、憂さを晴らすことができる。

 万引きは、たしか「七番」だった。万引きをするときの指の形(人差し指を鈎のように曲げた形)が由来だと聞いた覚えがある。

 ゴルフ用品売り場では、ゴルフボールの万引きが多かったが、万引きを目撃した店員は、
「七番さんがお見えです」

 と警備員に通報する。すると、警備員が出口で待ち構えていて呼び止めるという手筈だった。

 大センセイも一度、万引きがあった時刻に居合わせたことがあるが、三個入りのゴルフボールを万引きした犯人が品のいい老紳士だったと聞いて、人間の不思議に打たれたものである。

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