東出:確かに。

一之輔:他の人がどんなに笑っていても、一番前のおじいちゃんが寝ていたりすると、もう。落ち込みます。

──役者も噺家も観客を相手に演じる商売という点では共通。他人の目や評判は気になるのだろうか。

東出:SNSが広まり、役者さん含め、意識するようになったかもしれませんね。

一之輔:落語の場合、ドラマや映画と違って、一人でやるので、SNSでがんじがらめになるっていうのはないですよね。ただ自分の高座についてエゴサーチとかします。

東出:評判は気になりますか。

一之輔:悪口書かれると、「みんな死んじゃえ」って気持ちに(笑)。でも酒を飲んですぐ忘れる(笑)。

東出:落語のことを考えない日はありますか?

一之輔:あります、あります。そんなに考えないですよ。東出さんは四六時中、芝居のこと、考えてます?

東出:ひと月しっかり休みをもらったことがあったんです。すると、いざ演技をしようと思っても、なかなかすぐには元の感覚に戻らない、ってことがありまして。それから、プライベートでも仕事のことを考えるようになりました。
一之輔:まじめだなぁ。僕は、年に2回、5日ほど休みをもらうんですが、5日落語をやらないと、さすがにやりたくなる。落語のことを考えちゃう。そんな体になっていますね。

──一之輔さんのもとにはいま弟子が2人。さらに弟子入りを志願して門をたたく若者も少なくない。

一之輔:落語家を育てるのは難しい。今の段階だと、とにかく前座は教わったとおり、一言一句、元気よくやりなさい、と。でもそのうち「俺はこうやりたい」と自我が出てくる。その自我を「ダメッ。まだ早い」と、摘んだほうがいいのか、伸ばしたほうがいいのか、正直、僕にはわからない。

東出:そういうものなんでしょうね。

一之輔:そもそも俺が、人に落語を教えるのがおこがましいのかな……。ただ、弟子にはとにかく落語を好きでいてほしい。落語家に幻滅して、寄席にも行かなくなるのは悲しい。落語界には、いろんな人がいてほしいと思っているんです。お芝居だって、芝居が嫌いで、芝居を続けている人はいませんよね。

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