一之輔:紙に?

東出:はい。食べたものとか、出来事とか、誰に見せるでもなく。

一之輔:僕の連載もそうですが、日々起きたことの記録にはなっていますよね。

東出:この本は一之輔さんの生き方を証明している気がするんです。僕の尊敬する人が、「仕事(の目的)は生き方の証明であって、金を稼ぐばっかじゃない」って言っていました。まさに、この本がそうなのかなって。

一之輔:そんな大それたものではないですよ。

東出:原稿1本どのくらい時間をかけて書くんですか。

一之輔:正味2時間ぐらいです。「ゾーンに入る」みたいのがあるんですよね。うわーっと書けるときがある。

東出:読み返してますか?

一之輔:一応。でも読み返すと顔から火が出ます。僕、自分の音(落語)を聴くのもあんまり好きじゃないし、出演したラジオも聴かない。なんか恥ずかしいんです。東出さんは自分の出た映画やテレビを見ますか?

東出:見る場合と、そうでないときがありますね。でも見返さないのは非常にまずいことです。自分で見ないとダメですよね。

一之輔:落語の場合、自分の高座を聴いている噺家のほうが早く上手になります。だから恥ずかしくてつらいことなんだけど、聴かなきゃいけない……。

東出:僕は、映画は撮り終わってから、一度完成版を見るんですが、台本で最初から最後までストーリーを知っているから、お客さんとは決して同じ目線で見られないんですよ。このセリフ削られているなとか、そういうことが気になってしまって。それであえて、ちょっと時間をおいてから見ようってこともあります。

一之輔:「見直す」ってきりがないんだよね。区切りつけて先に進まないといけない。

東出:いつゴールなんでしょうね。

一之輔:落語の場合、20代でも、60代でも同じネタを繰り返してやる。つまり、何度でもやり直しができるようなもの。だから気楽といえば気楽だけど、いいかげんにやって、お客さんにおもしろくないと思われたら、最悪です。そういう意味では、自分に厳しくしないと怖い商売。「噺家殺すにゃ刃物はいらぬ、あくびひとつで即死する」って、言いますけど。

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