多彩な音でJ-POP未踏の領域に踏み出すサニーデイ・サービスの曽我部恵一
多彩な音でJ-POP未踏の領域に踏み出すサニーデイ・サービスの曽我部恵一
サニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』
サニーデイ・サービス『Popcorn Ballads』

 サニーデイ・サービスのニュー・アルバム『Popcorn Ballads』には驚いた。2枚組で全25曲、100分を超える大作だ。特定のテーマやコンセプトによる組曲スタイルではない。精緻に構築された曲とラフな録音による曲を寄せ集めたような作品だが、全体に通底するのは、クール&スマート。英知にとんだ洗練美とむき出しの衝動が混在している。

【サニーデイ・サービスの『Popcorn Ballads』ジャケット写真はこちら】

 ギター、ヴォーカルの曽我部恵一、ベースの田中貴、ドラムスの丸山晴茂によってサニーデイ・サービスが結成されたのは1992年。当初はイギリスのパンク、ポスト・パンク系に憧れていたが、はっぴいえんどの『風街ろまん』との出会いをきっかけに、70年代の日本のポップス/フォークへの敬意と愛着を込めたアルバム『若者たち』(95年)でデビュー。次作『東京』(96年)では、地方出身者の都会へのまなざしを表現し、絶大な評価を得た。街を背景に若者の日常、青春像を描き続けたが、2000年にいったん解散する。

 その後、曽我部はソロやバンド活動と並行するかたちで、08年にサニーデイ・サービスを再始動。かつてのグループ像を継承した『本日は晴天なり』(10年)や『Sunny』(14年)を発表する。

 16年の『DANCE TO YOU』では、制作時にドラムスの丸山が体調不良になったこともあり、作詞、作曲、編曲、制作を手がける曽我部恵一のワン・マン体制がより堅固なものとなった。

 本作『Popcorn Ballads』には、曽我部自身が関心を持ち、刺激、影響を受けてきた昨今の音楽事情が反映されている。といえば曽我部のソロ活動とどう違うのかという話になるが、曽我部が語るには“ソロはその時の気分次第”であり“サニーデイ・サービスという看板を背負えば意識も異なる”という。しかも、従来のイメージを覆したい意向もあったといい、確かに作品の出来栄えは大きく変容している。

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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