新開さんの言葉どおり、定期的な運動を介護予防につなげている地域がある。埼玉県鳩山町で、人口約1万4千人の4割が65歳以上の高齢者。埼玉県内で最も高齢化が進んだ自治体だ。

 平日朝9時半過ぎになると、町内の集会所には高齢者が続々と集まってくる。
♪それシャシャン、シャシャンと夢が湧く♪

 地元の盆踊り曲をアレンジした「新鳩山音頭健康体操」が流れると、約80人が一斉に体を動かし始めた。参加無料、申し込み不要の地域健康教室だ。

「1、2、3、4……」「4で脚に力を入れて!」

 インストラクターの声に合わせ、筋トレやストレッチをする。新幡愛子さん(71)は、大腿骨が変形して手術が必要となるかもしれない体だが、脚を鍛えて回避できているという。

「週1回来るのが楽しみで、元気をもらって帰るの。転ばないようにできるだけのことをしています」

 参加者の2割強は男性。3年前から通う島野羊三さん(75)は「体が柔らかくなり、疲れなくなった。最初は女性ばかりで溶け込むのが大変でしたが、最近は男性も増えた。仲間を増やしたいので、近所で『一緒にやろうよ』って声をかけています」と話す。

 15分間の休憩をはさんで約1時間半続ける。柔軟体操や、口の体操として合唱も組み込まれている。町内4カ所で毎週開かれ、のべ1万人が昨年度に参加した。開始当初の約10年前から徐々に増えてきた。

 町の要介護・要支援の認定率(2014年度末)は10.7%で、埼玉県平均は14.1%。県内市町村で2番目に低い。県が独自に算出する市町村別の健康寿命も1位。町は17年に「健康長寿のまち」を宣言した。介護予防に体操が功を奏しているとして、全国から注目されている。

 教室は、運動を通じて住民が社会参加する場にもなっている。講習を受けたボランティアが、健康づくりサポーターとして教室を支える。サポーターは地域の高齢者に参加を呼びかけるなど見守り役も果たしている。住民主導の運営が特長だ。

 年をとるにつれ、手術や入退院、身近な人との死別などを避けがたい。こうした出来事を機に、自宅に引きこもれば、要介護状態が近づく。教室には、伴侶に先立たれて元気のない人、脳梗塞や骨折の手術を受けた人らも参加する。元気を取り戻したり、半年後に杖なしで歩けるようになったりするケースがあるという。

「健康づくりサポーターの会」の佐藤初夫会長(74)は、定年後に近所の人の誘いで活動に加わった。「今年の冬は寒いが、体操しているから調子がいい。何年も風邪をひいていないし、生活習慣病もない。医者知らずだね。ワッハッハ……」と楽しそうだ。

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