鈴木おさむ/放送作家。1972年生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。多数の人気バラエティーの構成を手掛けるほか、映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍鈴木おさむ/放送作家。1972年生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。多数の人気バラエティーの構成を手掛けるほか、映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍
「生きていく」ということが強く印象に残る作品が多かった(※写真はイメージ)「生きていく」ということが強く印象に残る作品が多かった(※写真はイメージ)
 放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「今悩んでることは、80歳になっても悩む」をテーマに送る。

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 毎年、年末にNHK「ドキュメント72時間」で1年に放送されたものの中から「もう一度見たい作品」をランキング形式で紹介する長時間番組があり、ありがたいことに毎年、出演させてもらっている。司会の山田五郎さんと話したのだが、2017年は特に「生きていく」ということが強く印象に残る作品が多かった。

 3位に選ばれた「海が見える老人ホーム」。ここは、ちょっとセレブ感感じる老人ホーム。

 そこで様々なご年配の方々を追っていくのだが、みな、今を生きている。正直、老人ホームの密着とかドキュメントを見ていても、どっか他人事感があった。自分の親のことを考えることはあったが、「自分がこういうところに入って生活する」なんてことはまったく考えたことはなかった。が、番組内に出てきた80代のお爺ちゃんの一言が、僕的にはなかなか衝撃だった。「みんな早く逝きたいって言うのに、病院行くでしょ?」。その通り。いいタイミングで死にたいとか言ってるけど、いざ病気になると病院に行く。で、そのあとの言葉である。「30代で悩んでることは、80代になっても悩むんだよ」。えーーーー!?

 これには山田五郎さんも衝撃だと言っていた。ってことは、45歳で今、悩んでることってあと35年後も悩むの?

 ふと冷静に考えてみる。僕は45歳になった。20歳の頃って、45歳ってもっと大人だと思っていた。だけど、実際に45になると、20歳の頃より許せないこととか腹の立つことも多い。では、逆に僕より先輩の60代の人たちのことを考えてみると。年を重ねていくと、いろんな欲が一個ずつ抜けていくのかとか思ったら、そんなことない。むしろ手に入れたものを手放したくないと思ってる人が多い。  

 
 今悩んでることは、80歳になっても悩む。そんな話を、放送作家仲間のIさんとしていたら。Iさん、お父さんが86歳だそうだ。元々人の好き嫌いがはっきりしているようだ。友達や仲間がどんどん亡くなっていくらしい。そこでIさんは疑問に思ったことを聞いてみた。「嫌いだったやつが死んだら許せるようになるのか?」と。そうしたらお父さんは言ったらしい。「もっと腹が立つ」と。

 えーーーー!? 死んだから全部許せるようになるんじゃないの? 違うの? 先に死にやがってとか思うの? ってことは、人だけじゃない。社会に対しても、いい意味で諦めがつくわけじゃなく、その年になってもさらに腹が立つのかもしれない。僕なんか80歳になって、テレビ見て「最近のテレビはおもしろくねえな」とか言ってるのかもしれない。

 これを考えてみて、最初は「怖い」と思う自分がいた。その年になっても負の感情は減らないんだと。だけど、もう一歩俯瞰で考えてみる。80歳になっても変わらないなら、今、もっと大人になろうとか、45歳らしい立ち振る舞いをしようなんてする必要ないんじゃないかと。どうせ変わらないなら、遠慮せず、今を生きるべきだなと。そんなことを思っている2018年。

週刊朝日 2018年1月19日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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