田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
緊迫化する米国と北朝鮮の関係(※写真はイメージ)緊迫化する米国と北朝鮮の関係(※写真はイメージ)
 緊迫化する米国と北朝鮮の関係。ジャーナリストの田原総一朗氏は、武力衝突のほかにも懸念すべきことがあると主張する。

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 2018年に国民の多くが関心、というより不安を抱いているのは、トランプ米大統領が北朝鮮に対して武力行使をするかどうかであろう。

 朝日新聞によれば、11月に米国で実施された世論調査で「トランプ大統領が進んで北朝鮮に軍事行動をとる」とみる米国人が84%にのぼるという。たしかに、トランプ大統領のツイッターなどでの発言は、米朝間でいつ火を噴いてもおかしくないと思わせる。だが、もし米国が北朝鮮に武力行使をすれば、韓国や日本に報復攻撃が行われ多くの犠牲者が出る、とトランプ大統領もわかっているはずだ。マティス国防長官やティラーソン国務長官なども武力行使に強く反対しているはずだ。

 そこで、米国は国連安全保障理事会に、北朝鮮に対する制裁決議を何度も採択させている。12月22日に、10回目の制裁決議が採択された。ヘイリー米国連大使は、「今回の決議は、最も強い制裁内容が含まれ、北朝鮮への圧力をさらに強めるものだ」と強調した。

 だが、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は党の大会での演説で「敵の卑劣な反朝鮮策動ですべてが不足し、難関と試練が度重なるなかでも、国家核戦力完成が実現された」と力説し、制裁が効いている事実を認めつつ、屈しはしないとの決意を示した。

 日本では「制裁強化によって北朝鮮経済が深刻な事態に陥る」という見方が強いが、私が情報を得ている韓国の北朝鮮専門家たちは「北朝鮮の国民はこの程度の圧力ならば10年以上耐えられるはずだ」と話している。つまり、トランプ政権のほうが早く終わってしまうというのだ。

 
 ヘイリー国連大使は「北朝鮮が新たな挑発を行えば、決定的な制裁を科す」とも言った。「決定的な制裁」とは、中国が原油供給を完全に止めることなどであろうが、中国は絶対に承知しないだろう。中国にとって、北朝鮮が崩壊し朝鮮半島が韓国により統一されるのは最悪で、何としても北朝鮮を持続させたいと考えているはずだからだ。10回目の制裁決議に中国が賛成したのも、原油供給に触れず北朝鮮労働者の送還も2年先に延ばすなど、中国とロシアに譲歩したからだ。つまり中国もロシアも、北朝鮮がそれほど困惑する制裁にならないと判断したのだ。

 私は米朝の異常な緊張関係について、一般的見方とは異なる不安を少なからず覚えている。

 トランプ大統領は強硬姿勢を示しているが、実は、北朝鮮に対する危機感はそれほど強くないのではないか。そもそも米国に北朝鮮に対する危機感はほとんどなく、だからこそブッシュ、オバマ両元大統領は北朝鮮が核やミサイルの開発を進展させても、何の手も打たなかったのではないか。

 トランプ大統領の強硬姿勢はオバマ氏など過去の大統領と自分とは違う、というパフォーマンスであって、もし金正恩氏が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射をやめると言ったら核保有を認めることがあり得るのではないか。そして、北朝鮮が核保有国になれば、韓国も核保有を求めるだろう。こうなると、日本にとっても、中国にとっても最悪だ。

 北朝鮮に決定的な影響力を持つのは中国である。私は、安倍首相が習近平国家主席と会って本音の本音を聞き出し、習近平氏と金正恩氏が話し合うように説得すべきだと強く願っている。

週刊朝日 2018年1月19日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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