葉室さんとの付き合いはそれほど長くはない。しかし何度も助けていただいた。2年半前には「没後20年 司馬遼太郎の言葉」で直木賞作家の安部龍太郎さんと京都で司馬作品について語り合ってくださった。対談後、会食の席で葉室さんは言った。

「ぼくは50歳を過ぎて物書きを始めた。書きたいことはたくさんある。中央集権の東京ではなく、九州の久留米という地方からの目で歴史小説を書いていきたい。西郷隆盛と西南戦争をもう一度見直したい」

 16年4月の地震のときは発生3日後に、

「久留米も震度4でだいぶ揺れたと思います。週刊朝日で地震別冊を緊急出版することになりました。急で申し訳ありませんが、文章を書いていただけませんか。締め切りは2日後でお願いします」

 という無理なお願いも受けてくれた。短時間で仕上げたエッセー「熊本の友へ」には感銘を受けた。17年に司馬賞贈賞式のスピーチ直前にインタビューをしたときも早朝にもかかわらず丁寧に応じてくださった。

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