重松:マスターズ甲子園は、僕も少しお手伝いしていて、星野さんには本当にお世話になっています。でも、おっしゃったように今の子どもたちは、本当にそういう「悔しさを我慢する経験」をしていないように思いますね。

星野:そればかりでなく、最近の日本人は歴史を伝えないし、伝統を受け継がない。そのことを、僕はとても危惧していますね。

重松:そうですね。それこそ、プロ野球のことにしても語り継いでいない感じがしますね。僕たちのような、長嶋(茂雄)さん、王(貞治)さん、そして星野さんの現役を知っている世代が案外、自分の息子たちに語り継いでいない。だから、最近の小学生は「1本足打法」といってもピンとこないんですよ。日本人が野球好きだとはよく言いますが、大事なことは伝えていっていない気がしますね。
 
●歴史を伝えない日本でいいのか

星野:メジャーリーグを見に行くと、子どもや孫に向かって「あれはおじいちゃんの時代のスーパースターなんだぞ。今の、ボンズなんて問題じゃねぇよ」とか、「お父さんの若い頃にはこの選手がすごかった」って話をしている。

重松:今、活躍している選手よりもっとすごかったと説明しているんですね。

星野:そうなんです。でも、日本人だとこうですよ。「あれは、お父さんの時代の選手で、よう打ったけども、悪くなってな」。あるいは、僕なんかもそうでしょうけど、「やんちゃだったな」とかね。僕なんか、まだテレビに出ているので子どもたちも存在を知ってくれていますけど、「星野監督って、どこを守っていたの?」っていうのは絶対にある。ミスターだって、我々にとっては憧れの太陽みたいな存在ですけど、「一茂のお父さん」のほうで通ってしまう。それが寂しいんですよね。もっと、もっと言葉というのは伝えるものであると、愛であるし、力でもある。朝日新聞の宣伝ではないですけど。(笑い)

重松:別に王さんや長嶋さんが体調を崩したからこんなことを言うわけではないのですが、ON世代から引き継いで、星野さんの世代が今後は、野球界を引っ張っていかれると思うんです。

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