例えば、片手には新聞紙に包まれた野菜が入った買い物かご。もう片方の手には、サザエさんの大好物の焼き芋。そんなシーンのサザエさんのファッションは、ひざ下スカートに靴下、つっかけ……と、練りに練られた「絵」に見えるが、伊藤さんのスタイリングの速さには驚くばかり。テキパキとスタイリングをこなしながら、サザエさんのイメージにピタリとはまる場面を表現した。テーブルの上におやつを並べる様子にも、一切の迷いは感じられなかった。

「いつも速くてびっくりされます(笑)。でも頭の中にイメージをしっかり作っておけば、あとはそれを再現していくだけ。イメージ作りに時間をかける分、物を選ぶときには迷いがないんです。だから買い物も速いですよ」

 撮影時には、「かわいい~!」の連発だった伊藤さん。瞬間に見せる笑顔は、まるでサザエさんに出てくるワカメのよう。ただ、周囲から「サザエさんみたい」と言われることも多いそうだ。

「うっかり財布を忘れて買い物に出たりと、おっちょこちょいな一面も。だから何となく、サザエさんと自分とを重ね合わせてしまう部分もあります」

 伊藤さんに限らず、誰もが周囲の人や自分の中に「サザエさん一家の誰か」を見つけることができる。それがこの作品の大きな魅力なのかもしれない。(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日 2018年1月5-12日合併号より抜粋

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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