永田:なるほど。失恋して、悩んで何かの歌を聞くっていう短歌は多いんだけど、まったく逆なんだね。それで、今日の私っていったいどうなってるの?っていう、その感情の迎え方が面白い。

知花:とても自然体で、たぶんすっと出てきた歌なんだろうなって思いました。松原さんの歌は、いつも等身大の女子の声が聞こえてくる気がします。がんばらないし、ヤケなときはヤケ。かっこつけない感じが好きだなと思います。

 この歌と同じくらい私が気に入ったのが、「介助する僕の背中に手を回しラストダンスと戯けた妻よ」。ずっと連れ添ってきたご夫婦が、物理的に再び体が近くなるのが介助で、でもそれが違う感覚で捉えられた瞬間なんだろうな、ロマンチックだなと思いました。

永田:いい歌を選ばれたと思います。介護の歌はいま、ひとつの分野を作るくらい増えているけれど、だいたい、ネガティブな感情がそのままぶつけられている。でもこれは、悲しいけど明るいのが、とてもいいよね。奥さんの精一杯のユーモアというか。
ただ、「戯けた」がもう少し違う言葉だったらよかったと思いますね。作者が奥さんの行為を「戯けた」と推し量ることで、読者の受け取り方を、ちょっとゆるめてしまうところがある。

知花:先生だったら、どうされますか?

永田:「笑った」とか、もう少しストレートでいいかなと思いますね。歌は、読者と作者が一緒に一つの世界を作っていくことが大事なんです。どう解釈されるかは読者に任せて、そっと託す。これは歌作りの基本として、なんとかみなさんに伝えておきたいですね。

週刊朝日  2018年1月5-12日合併号より抜粋