「日銀は長期金利の維持を優先させ、物価上昇を容認している」

 こんな見方が投機筋に広まり、日銀がどこまで国債を買い支えられるか試そうと、国債を売り浴びせる動きが一気に広がった。物価や長期金利の上昇を日銀は抑えられなくなり、政府は冒頭の発表となった。

 市場はいったん沈静化した。しかし、国民がパニックに陥り、各地で激しい抗議デモが繰り広げられた。政府に財政再建策の撤回を求める声が日増しに強まり、そうした国内の混乱を見て、市場では再び国債売却の流れが強まった。日銀はなおも買い支えようとしたが、しだいに日銀そのものの信頼性が疑われるようになり、長期金利が急騰。国内の金融機関までもが国債の投げ売りを始めた。

 追い込まれた政府は、首相を議長とする「財政危機対応会議」を設置。さらなる財政再建策を検討し始めた……。

 むろん、すべてフィクションだが、まったくの絵空事ではない。政府の対応については、13年に東京財団が発表した政策提言「財政危機時の政府の対応プラン」を参照、具体的なシナリオは、プロジェクトのメンバーだった小林慶一郎・慶応大学教授と小黒一正・法政大学教授にアドバイスを求めた。

 現実のものになってほしくはないが、市場で危機が起きるときは一気に、大規模に、そして暴力的に事態が進む可能性が高い。(本誌・首藤由之)

週刊朝日 2018年1月5-12日合併号より抜粋

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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