ハワイ力士の横綱、武蔵丸(c)朝日新聞社
ハワイ力士の横綱、武蔵丸(c)朝日新聞社

 九州場所中に発覚した元横綱日馬富士による貴ノ岩への殴打事件に端を発する角界の内紛騒動。モヤモヤした日々を過ごす好角家のみなさま、ここは数々の名勝負で観客を魅了してきた名力士たちの思い出に浸って楽しんでほしい。ご登場いただくのは34代木村庄之助として土俵を裁いた伊藤勝治さん。さぁ、時間いっぱい、語っていただきましょう。

【フォトギャラリー】34代木村庄之助が語る昭和~平成なつかしの大相撲名勝負

<前編>からつづく

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 行司が裁く取組って、はっきりと勝負ありの相撲はその瞬間にパッと軍配を上げるから、明日になったら忘れるんです。だから名勝負ってのは、他の行司が裁いているのを見てわかるもの。自分が土俵で裁くと、勝ち負け以外のことが印象深かったりしますね。行司の仕事の一つである場内放送も務めていましたから、そうして場内から見てきた取組の話をしましょうね。続きましては、6位から10位を紹介します。

【6位】琴風×小錦/昭和59年9月場所

 この取組には、西前頭12枚目の多賀竜の優勝がかかっていました。千秋楽までに多賀竜1敗、小錦が2敗で追い、小錦が琴風に勝って多賀竜が朝潮に負けると優勝決定戦になる。大方の予想は小錦が勝って優勝決定戦になる、でした。

 同時にこの千秋楽は蔵前国技館の最後の日。中継の最後にサヨナラ蔵前、次は新しい両国の国技館でお会いしましょうという演出が用意され、放送時間内に収めなくちゃならない。場内放送を担当する私らは2日前にNHKと打ち合わせをし、てんやわんや。

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