懸賞が五十数本もかかって、それがまだ土俵を回ってる一番最初の仕切りで、朝青龍は立つ、と思った。朝青龍はさがりを分け、もう立つ気満々なんです。でも白鵬は下ばかり見てて気づかない。仕切った後に顔を上げ、朝青龍の目を見て気づいたんです、「あ、立つ」って。でもそのときは息が合わなくて止めた。

 塩を取りに行って2度目の仕切り。これは立つと思ったんで、こちらも心の準備をし、足を引く構えをします。時間いっぱいで軍配を返す前は、左側の足を浮かせるんですね。パッと引けるように。ところが、朝青龍のさがりが一本、ポロリと前に落ち、それで気分がそがれ、結局立たなかった。最後まで淡々と仕切って、白鵬が勝ちました。

 その後、朝青龍と白鵬に聞いたんです。朝青龍は「ああ、立つつもりでしたよ」と頷き、白鵬も「ええ、最初気づかなかったけど、朝青龍関が来ると思ったんで2番目に立とうとしたら、来なかったからやめたんです。時間前に立っていいんでしょうか」と言うから、「いいんだよ、気が合えばいつでも立って」と、横綱になって間もなかった白鵬に教えました。

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