妻:バイクを借りて、ガイドを雇って、ブッダの修行したところなどを回って。最後にガイドが「兄がみやげ物屋をやっているから寄ってくれ」と言うので、「あ、来た」と思ったんです。でも、すばらしいガイドだったし、料金も安かったので、寄ってもいいかなと思って行ったら……。

夫:店には日本語ペラペラのおじいさんがいて、高いものから勧めてくるわけですよ。せっかくインドに来た記念だからとか言って。

妻:1万円ぐらいの大粒の石のブレスレットもありました。私はいやになってしまって、「もういいよ、買うから。買わなきゃ私たち帰してもらえないんでしょ」と言ったら、「そういう言い方はどうかと思うよ。せっかくインドまで来て、何も持って帰らないのはどうなのか」とか言うんです。

夫:それが全部、日本語なんですよ。

妻:日本人の心情をよくわかっていて、良心とか、もったいないという心を巧みにチクチク刺激してくる。結局、ブレスレットを売りつけられました。

夫:という思い出の品がこれ。2千円ぐらいでした。

妻:怒りを忘れないために、私はよく着けてますよ。

夫:僕は仕事場の引き出しに入れています。やはり見ると負けない心が生まれてきますね。

妻:まあ、これを売っている人も一生懸命、生きているわけだし(笑)。

(聞き手・仲宇佐ゆり)

「『結婚に否定的だった』角田光代が河野丈洋と再婚した理由」につづく

週刊朝日 2017年12月29日号より抜粋