ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動するミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
今回ミッツさんが注目したのは…(※写真はイメージ)今回ミッツさんが注目したのは…(※写真はイメージ)
 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「貴乃花」を取り上げる。

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 とりあえず「やはり貴乃花はとてつもないスターだ」ということだけは再認識できた今回の騒動。『貴花田→貴乃花』とともに青春期を過ごし大人になった世代としては、彼が今も大相撲の象徴である事実を誇らしく思うと同時に、漠然とした責任みたいなものも薄らと感じながら、じきに幕が下りる『平成』という時代に想いを馳せている次第です。

 1990(平成2)年、17歳で新入幕した貴花田(当時)は『角界のプリンス』として瞬く間にアイドルとなりました。今でも覚えているのが、平幕ながら初日から破竹の11連勝をし、いよいよその熱狂が名実ともに国民的になりつつあった91年春場所の12日目。240キロ近い『小錦』の巨体に真正面からぶつかるも全くもって歯が立たず、ゆっくりと寄り切られていく姿は、まさに『順風満帆ではない10代の壁』そのものでした。その瞬間から、私の貴花田に対する勝手な感情移入は始まりました。翌5月場所ではスーパーヒーロー『千代の富士』を引退に追い込む金星を挙げるなど、そのまま一気に大関・横綱へと駆け上がるかと思われましたが、同期でもある『曙』の怪力に苦戦したり、意外にもどかしい日々が長かったというのがリアルタイム世代の記憶です。宮沢りえちゃんとの『すったもんだ』があったのもこの頃でした。そして、ようやく大関昇進を決めて臨んだ93年の春場所。日本中が期待する中、優勝したのは『貴』でも『曙』でもなく、当時まだ小結の『兄・若花田』という展開も秀逸で、それを観る『きんさんぎんさん』が茶の間で大興奮する様子は、間違いなく平成初期のハイライトだったと言えるでしょう。

 
 そんな険しき10代を駆け抜け、22歳(95年初場所)にして遂に横綱へと昇り詰めた貴花田、改め貴ノ花、改め貴乃花。勝手な感情移入をしてきた私も『横綱・貴乃花』の誕生の年に20歳を迎え、実にタイミング良く青春期を卒業し、これからはまさに『人生の電車道』が待っているのだと思い込んでいましたが、紆余曲折が本領発揮するのは20代に入ってからだとすぐに気付きました。『オトナ』という敵が存在した頃はどんなに楽だったか。オトナになったら自分で敵を見つけ、自ら敵を作って戦わないことには前進できない。そしてここでもまた、貴乃花はその象徴でした。40代になってもなお。かつての『角界のプリンス』が今や『角界のマフィア』のような姿になって戦っています。

 私の勝手な感情移入も再燃している今日この頃。「今さら何故?」と不思議だったのですが、先日とんでもないものを見てしまいました。貴乃花が女装してる……!! 何でも一門の親方衆で『女装カレンダー(相撲協会非公式)』なる高尚なグッズを作ったらしく、黒髪ロングヘアに赤いハットを斜め被り、真っ赤な口紅で頬杖をつく貴乃花親方が先頭を飾っています。正直言って『女装力』相当高いです。特に頬杖をつく腕から手にかけてのしなやかさ! まんざらでもなさそうな気だるい表情! 昨日今日の女装には出せない、忘年会の余興レベルを超えた性(さが)を感じます。是非ひとりでも多くの日本人に検索して頂きたい。今まで見てきたどの貴乃花よりも『戦闘モード』です。まさか女装に『横綱の品格』を見る日が来るとは。貴乃花万歳!

週刊朝日 2017年12月22日号

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ミッツ・マングローブ

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ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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