根負けして酒を買い与えてきたというが、そうしないとふらふらになりながらも自分で買いに行ってしまうのだという。

「いまは『酒をやめたい』と言っています。年内まで命が持たないんじゃないかと思いましたが、入院して少し元気になってくれた。長い時間をかけて克服していくしかありません」(妻)

 アルコール依存症者は、節酒して適度な飲酒者に戻ることはできないとされている。唯一の治療方法は断酒しかない。

 東京アルコールセンターでは3カ月の入院期間で、患者はアルコール中心の生活環境から一時的に離れることになる。

 毎日、午前と午後にアルコール依存症についての勉強やグループワーク(集団精神療法)などのプログラムを実施する。病棟での飲酒を防止するために、患者にシアナマイドなど抗酒剤を服用させることもある。もし飲酒すれば、激しい頭痛や嘔吐などに襲われる劇薬だ。

 夜間は、回復者たちが集まる断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)といった自助グループに参加する。退院後も多くの患者が定期的に医療機関で受診しながら、自助グループに参加している。

 もちろん、再飲酒して入退院をくり返す人は多い。東京アルコールセンターで相談室長を務め、現在は慈友クリニックの精神科で課長を務める重黒木一(じゅうくろきはじめ)看護師はこう語る。

「一直線に回復していく人は非常に少ない。ほとんどの人は再飲酒を3回4回とくり返します。再飲酒は回復へ向かう次のステップと考えればいいのです。患者さんたちは『酒は命の水だ』と言います。『酒がなければ生きてこられなかった』とも。ならば、酒に代わる『命の水』を新たに見つけるしかありません」

■【飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)】(カッコ内は点数)
<1>あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか?
・飲まない(0) ・1カ月に1度以下(1) ・1カ月に2~4度(2) ・1週に2~3度(3) ・1週に4度以上(4)

<2>飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか?
・1~2ドリンク(0) ・3~4ドリンク(1) ・5~6ドリンク(2) ・7~9ドリンク(3) ・10ドリンク以上(4)
(例:ビール大瓶2.5、日本酒1合2、ウイスキー水割りダブル2、焼酎お湯割り1、ワイングラス1)

<3>1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか?
・ない(0) ・1カ月に1度未満(1) ・1カ月に1度(2) ・1週に1度(3) ・毎日あるいはほとんど毎日(4)

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