帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
心を静かにする(※写真はイメージ)心を静かにする(※写真はイメージ)
 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。

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【貝原益軒養生訓】(巻第二の43)
心をつねに従容(しょうよう)としづかにせはしからず、
和平なるべし。言語はことにしづかにして
すくなくし、無用の事いふべからず。
是尤(これもっとも)気を養ふ良法(りょうほう)也。

 養生訓では心の養生、つまりメンタルヘルスについて様々に語っています。そのなかでたびたび強調されるのが、「心を静かにする」ということです。

「心はいつもゆったりと静かで、せかせかせずに平和でなければいけない。言葉は特に静かに少なくして、無用のことを言ってはいけない。これがもっとも気を養う良い方法である」(巻第二の43)

 この「心を静かにするためには、口数を少なくしろ」ということも繰り返し語られています。確かに口は災いの元といいます。人間関係がストレスにつながることを考えると、余分なことをしゃべらないというのは理にかなっているかもしれません。おしゃべりがストレス解消につながるという人もいるでしょうけど。

「ゆったりと静かで、せかせかせずに」と言われても、昔と違って現代は何事もスピードアップされ、ゆったりすることが難しくなっています。この私も昼の診療時間は実にせかせかしています。6時半には一杯やりたいと思っているので、なおさら忙しくなります。

 だからこそ、1日5分でも、ゆったりとした時間を持つことが必要なのです。私の場合、朝の太極拳がその時間です。実はもう一つそれとは別に、心を静かにするために朝、欠かさずやっていることがあるのです。こちらは、太極拳と違って誰でもすぐにできますので、ご紹介しましょう。

 
 それは「延命十句観音経」というお経を唱えることです。中国の南北朝時代、南朝の将軍が戦いに敗れて処刑されそうになったときに、このお経を「千回唱えれば助かる」と夢のなかで教えられ、千回唱えたら処刑を免れたといわれています。

 臨済宗の中興の祖と称される、江戸時代の禅僧である白隠さんが広めたもので、「丹田から声を出して朗々と唱えると霊験あらたかだ」と白隠さんは教えています。名前通り10句しかないので、一回唱えるのに1分もかかりません。

 私は毎朝、これを心の中で唱えて口をモグモグさせていたのですが、仏教学の大家である故・鎌田茂雄先生に「腹の底から大声で唱えなさい」と叱られました。それ以来、大きな声を出して、唱えることにしています。お経は次のようなものです。

「観世音(かんぜーおん)南無仏(なーむーぶつ)与仏有因(よーぶつうーいん)与仏有縁(よーぶつうーえん)仏法僧縁(ぶっぽうそうえん)常楽我浄(じょうらくがーじょう)朝念観世音(ちょうねんかんぜーおん)暮念観世音(ぼーねんかんぜーおん)念念従心起(ねんねんじゅうしんきー)念念不離心(ねんねんふーりーしーん)」

 私は特に仏教に対する信仰心が強いわけではないのですが、唱えると心がゆったりと静かになります。座禅や瞑想と同じ効果があるのではないでしょうか。

 益軒が説くように、無用なことに口を開くのはやめにして、ご利益がありそうな文言を口から発していた方がいいような気がします。
週刊朝日 2017年12月15日号

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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