しかし、「プリウス」のような世間を驚かす新しいEVが出ないうえ、開発速度で他社に見劣る。「EV対応への遅れが株価へも影響している」との見方が社内にもあるほどだ。

 こうした状況に焦ったのか、トヨタは11月27日、「車両電動化技術説明会」を開いた。電池、インバーター、モーターの製品や技術を実物ですべて公開。初代から現行の4代目までプリウスの技術がどう進化し、何がポイントなのかについて、多くのエンジニアが丁寧に説明した。トヨタが虎の子の技術を丸裸にして見せることは珍しい。

「EVで出遅れていますが……」と会場にいたエンジニアに聞くと、「危機感を持ってやっています」との答えが返ってきた。

 記者会見では、安部静生パワートレーン開発統括部長(常務理事)がこう答えた。「(これまでの取り組みに)おごりもあったのかと反省している。お客さまが求める便利なEVをつくる技術もトヨタには足りない」。EVをつくる要素技術を持ちながら、うまく取りまとめて顧客の満足や企業収益につなげられるEVが開発できない。そんな課題が浮かぶ。

 トヨタはEV開発でマツダに依存している。トヨタ、マツダ、デンソーは9月28日、EVの共同開発の新会社設立を発表した。社名は「EV C.A.Spirit」で、「C.A.」はコモンアーキテクチャーの略。少ない経営資源で多様な車を開発できる、マツダの開発思想を示す言葉だ。前出・安部氏は「マツダに学びたい」と話す。開発実務を担うリーダーには、マツダの藤原清志専務が就いた。

 トヨタがEVでてこずる一因は、「モデルベース開発(MBD)」と呼ばれる手法の導入の遅れだ。MBDはバーチャル・シミュレーションを使った開発手法。国内ではマツダが進んでおり、海外ではドイツメーカーが積極的だ。コストがかかる試作を減らし、開発速度を上げられる。

 トヨタがMBDで出遅れた要因について、業界関係者はこう指摘する。

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