“おかしみ”と“かなしみ”――。
ノーベル賞作家ハロルド・ピンターの不条理劇「管理人」を上演するにあたり、演出家の森新太郎さんは、今の日本で、その両方を表現できる俳優は誰だろうと考えた。ゴミ屋敷の一室で、ある青年とその兄と、自分の居場所をめぐり駆け引きや闘争を繰り広げる宿なし老人デーヴィス。それを、重く暗くならず、ユーモアとペーソスをもって演じられるのは、温水洋一さんをおいていないと思った。
「おどおどしているかと思えば、急に図太くなったり、いろいろとえたいの知れない感じの役です。こういう正統派の芝居には、あまり縁がなかったですし、台詞の量も膨大なので、お引き受けしたものの、今はとにかく不安でいっぱいです。舞台は好きなので、楽しみたいですけど」
インタビュー中、“不安”という言葉を何度も口にした。その一方で、自分が安定した状態に置かれることも、気持ちが悪いのだそうだ。
「お笑いでも芝居でも、“慣れ”が一番怖いんですよね。とくに舞台では、緊張していない状態のほうが危ない。もし本番前に『あれ? 今日は緊張してないぞ』なんて自分がいたら、本番でミスしてしまいそうで、かえってドキドキします。私生活でもそういうところがあって、たとえば、すごくいいことが続くと、その先に落とし穴がありそうな気がして不安になる(苦笑)。貧乏性なんですかね。だから、トントン拍子の人生も望まないし、あまり贅沢もしたくないです。あ、でもこんなこと言いながら、人生で自慢できるほどラッキーが続いたことはないんですけどね(笑)。ただ、仕事をする上で、人との出会いには恵まれたかな」