また、復習や宿題を怠り、授業中に悪さをしてみせる兆候が出てくると、「家庭で子どもが真ん中にいるか」と気にかける。かつての教え子の母親が、女子御三家のひとつ女子学院(東京)への進学を切望し、子どもが生まれる前から“第1志望”と決めていた。ある日、女子児童は学校で女子同士のトラブルに見舞われ、「女子校に進んだらこんなことがまた起こる」と、共学校への進学を希望。だが母親に言えずに、秋口から表情がさえなくなった。松尾校舎長は訳を聞き、母親に報告。「私が勝手に決めていた」と母親は目を潤ませ、反省したという。

 その松尾校舎長だが、小学6年の受験生の親でもあり、苦い経験を持つ。1年前、子どもの算数の答案を見て、「なんでこんな解答になるんだっ」と叱責。同時に成績が下がってしまった。その際、保護者にいつも念を入れて伝えているメッセージを思い出した。「子どもから1メートル下がってください」。それを実践し、成績は上昇。その実体験を交えながら、保護者に語っている。

 親は伴走者のように、子どもの横に立つのが鉄則だという。子どもの前に出て手を引っ張ると、前には進むが、子どもは目の前が見えなくなる。後ろから押すと、ペースが乱れ、つまずいてしまう。ぱさぱさと乾いた受験はごめんだ。潤いのある受験でゴールテープを切ってほしい。(本誌・永井貴子、前田伸也)

週刊朝日 2017年12月8日号より抜粋