首都圏で約4万9700人が挑戦するとされる中学受験。では、学習塾の現場では、受験うつや受験ストレスにどの段階で気づき、手当てをしているのか。

「大丈夫ですか。頭から角が出ていませんか。親子で戦う中学受験とは、親と子で戦うんじゃないですよ、いっしょに戦うんですよ」

 1954年に創業した中学受験塾の老舗「四谷大塚」。5年生時の面談は年間2回、父母会は月1回で、6年生になると4回から6回に増える。そこで34年教える、津田沼校舎(千葉)の松尾浩司校舎長は、受験前になると、保護者に向かって、必ずそう説明する。

 親はわが子がかわいい。だから、不合格になるかもと不安になり、つい子どもに聞いてしまう。「ねえ、あなた受かるの?」。そして追い打ちをかける。「私がこんなにがんばっているのに、どうしてあなたはがんばらないの」と。

 子どもは親に認めてほしい。だから親の曇った表情は、子どもの動揺を誘う。

 そこで、松尾校舎長は、保護者の面談で、「お母さん、女優になってくださいね」と説得する。かつて、受験会場に入る直前まで、漫才のネタをやってケラケラ笑いながら過ごしていた母子がいたが、合格の報告を受けた後、母親は「がんばりました」と漏らしたという。「悲壮感すら漂わない。大女優だ」と感銘を受けた松尾校舎長は、それから、受験生の母親に、「女優のススメ」を説いている。「私、できるかしら」とはにかむ母親に、「お母さん、すてきですよ」と伝えている。

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