離婚してからこの母娘が味わってきた苦労、自分のせいだと思い続けてきた娘の胸中、最後のセリフに込めた母の思い……。10代20代の若造や小娘が読むのと、それなりに長く生きてきたおじさんが読むのとでは、受け止めるセンサーの感度が大違いです。少なくとも過去の自分より今の自分の方が、はるかに多くの情報を受け止められるに違いありません。

 253話は、まさにおじさんの心に突き刺さりまくる話。子どもの頃に抱いたヒーローへの憧れ、ほど遠い状態にある今の自分、でもあがきたい意地とプライド……。自分もおじさんだからこそ、物語の中のおじさんの気持ちや、彼が背負っているであろう苦しみの大きさが、ひしひしと伝わってきます。

 周囲のおじさんにも、この作品のファンは少なくありません。彼らも私も、連載を載せている講談社のサイト「モアイ」で、毎週月木土に新作が公開されるのを心待ちにしています。

 そんな同志たちに、作品の魅力を聞いてみました。

「男前とは何かというのが、ひとつのテーマになってるよね。遠藤も彼を慕う野良仲間のニイも、家族を守るタヌキのお父さんも、みんなつらい状況から逃げないで、全力で立ち向かっている。遠藤が病気の重郎を助けるために、いつもやさしくしてくれる家族に助けを求めるシーンにも泣いた。あの必死さが、胸を打つんだよね。俺も彼らのように生きなきゃなって思うよ」(50代、IT企業役員)

「読み終えたあとに、ホッとしたりホロリとしたり、自分にいいことが起きたみたいな気持ちになれるところが好きですね。この漫画がこんなに人気なのは、癒やされたい人や、ギスギスした心をあたためてほしい人が多いってことなのかな」(40代、会社員)

 時代の流れと重ね合わせて魅力を分析してくれたのは、50代の自営業者。

「1980年代頃に『根暗狩り』みたいな風潮が生まれて、それからずっと『暗いは悪』『明るくてポジティブなことは善』とされてきた。みんなもう、明るく振る舞うのに疲れたんだよ。救いようのない切なさ、やるせなさを隠すのではなく、『みんな同じだよ』と共感し合う。この漫画のヒットは、そういう時代がやって来た象徴じゃないかな」

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