和牛の生産コストは6割が子牛の購入費で、2割がえさ代。販売価格が下がり始めると、約20カ月前に買った高値の子牛の費用が重荷となり、出荷しても原価を下回ってしまう。

 若松さんは「来年には赤字となる農家が増え、その赤字経営はしばらくの間続く可能性がある」と話す。

 生産者と国が積み立てた資金から、赤字額の一部を補塡する制度はある。ただ、すべてはまかなえず、価格の動向に戦々恐々とする肥育農家も多い。

 高値で子牛を売れた繁殖農家も、万々歳ではない。零細経営が多く高齢化も進んでいるため、子牛の高値販売を機に、離農する動きが広がっている。

 繁殖農家は4万3千戸、肥育農家は1万1千戸。ともに5年前から約2割減った。繁殖農家がさらに減れば、子牛の数が増えず、仕入れる肥育農家も困る。両者がともに弱体化していく悪循環が、和牛バブル崩壊による最悪のシナリオだ。

 豚は出荷までの期間が約半年で、鶏は2~3カ月。「和牛は3年サイクルの事業」(若松さん)のため、農家も急な軌道修正が難しい。生産基盤が大きく揺らげば、和牛が食卓から消える真の危機につながる。

週刊朝日  2017年12月8日号