春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。
謙虚さには「回転寿司が一番」!? 春風亭一之輔の持論(※写真はイメージ)謙虚さには「回転寿司が一番」!? 春風亭一之輔の持論(※写真はイメージ)
 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「謙虚」。

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「お前は横柄で偉そうだ」と、言われることがある。

 そんなつもりはまるでないのに、どうも他人様にはそう見えるらしい。

 誹謗中傷に等しい。悔し涙にくれながら、周りを見返してやろうと考えた末、謙虚さを身につけるには「回転寿司が一番」という結論に至った。

 回転寿司は人間のむき出しの欲望が交差するところ。寿司がのるベルトコンベアは、欲望を覆い隠す上っ面を剥がす電動サンダーだ。

 まる一日飲まず食わずで、回転寿司に行ってみてください。おのれのエゴの出っ張り加減に驚くはずだから。

 時分どきの人気店に行こうものなら、ちょっとの列でもイライラしがち。よくない。空腹の時間が延びるだけ、より美味しく頂けるんだと思いたい。これが、THE・謙虚。

「どうぞ、こちらへ!」。好きなとこに座らせてくれよ、と思いがちだけど、立ち止まって考えてみる。

「店員さんが働きやすい→接客しやすい→客も快適」

 となりやしないか。ディス・イズ・謙虚。

 お茶の粉。「スプーン一杯で十分です」との注意書き。一杯以上入れちゃう人。信用しましょうよ、お店がそう言ってるんだもの。「一杯以上入れると濃すぎて胃が荒れます」と、書きたいはずなのに書かないお店の配慮もザッツ・謙虚。

 醤油も、必要な分だけを小皿に注ごう。足らなくなったらまた足せばいい。ごちそうさまと同時に小皿がキレイになったらベスト・謙虚。

 いかに空腹でも「我先に!」という態度はダメ。様子を見計らって、落ち着いてハッキリと通る声で注文。一皿食べきらないうちに何枚も立て続けに注文するのは寿司が乾いてしまう。一枚食べたら、また一枚。コツコツ謙虚に皿を積み重ねたい。

 ガリは食べ放題だからって食べすぎはよくない。

 甘酢と生姜の辛みで口のなかがいっぱいになって、寿司の味がわからなくなるほど食べたら元も子もない。確かにガリは美味い。そして口に運びやすい気楽な存在。そんなフレンドリーなガリに対しても謙虚でいられるかどうか、我々は試されているのです。

 
 おなかが膨れてきたころ、自分の皿はどうなっているだろう。ちゃんと色分けされて積んであるか? 店員さんが勘定しやすいようになっているか? 今はピッとセンサーで数えられる店もあるが、全てがそうとは限らない。甘えてはならない。

 そして、回転寿司における一番の難関は、

「もう一皿なら食べられるんじゃないかな?」

 という自身に対する過信だ。

「もうやめといたほうがいいんじゃないですか……?」

 とは誰も言ってくれない回転寿司は、「欲望の魔窟」だ。おのれを律し、あくまで冷静に「お勘定お願いします」の一言が言えれば、マン・オブ・謙虚。

 腹八分目で勘定を払えた自分を褒めてあげたいが、自分を褒めたりしたらノー・謙虚。「最後の一皿分のお金はまた、次回に……」。これくらいの気持ちでいられればマスター・オブ・謙虚。

 謙虚の道は回転寿司にあり。安倍さんにもぜひオススメしたい。

週刊朝日 2017年12月1日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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