桐谷:怒ってるのとも違うし、ヤンキーっぽい言い方も違うし、ほんとにピュアに言ってるんですよね。

林:そうそう。大人の胸を打つすごく深い言葉だなと思いました。原作は撮影の前に読んでたんですか。

桐谷:読みました。友達が貸してくれたんです。その友達の連れが「これ、映画化されたら、神谷役、健ちゃんに来るわ」って言うてくれたんですよ。縁を感じましたね。

林:私もぴったりだと思いましたよ。又吉さんの原作を読むと、神谷さんの素晴らしい言葉が毎ページのようにあって、読者が圧倒されちゃうんですよね。贅沢に詰め込みすぎだよ、と思うくらいでした。でも、その天才神谷を演じるのって、ぴったりとはいえ大変だったと思う。

桐谷:苦悩したこともありましたよ。原作を読んだときに、神谷が一人の人間に思えなかったんですよ。もちろん人間いろんな側面がありますけど、それにしても。

林:神谷さんって、バカなことも言うんだけど、人生の真実を突いたような非常に哲学的なことを言いますよね。インテリっぽいところがあるかと思えば、とんでもないバカなところもあって。

桐谷:そうなんですよね。いざ演じるとなったときに、どうしたらいいのかわからなくなって。そんなときに、映画の中でコンビを組んだ相方役の三浦(誠己)君、吉本の元芸人さんで、いま俳優さんですが、その彼と代々木公園で漫才の稽古をしてるときに、「桐谷健太がおもしろいと思う言い方でやったら神谷になると思う」と言うてくれたんですよ。

林:ほーォ。

桐谷:その言葉がスポーンと入って。俺が持ってるもの、今まで培ってきたものをやればええんやな、と思いました。後輩にもタメ語を言われるような雰囲気とか、ほんと微妙なところをはずさずにやっていけばええんやと思って、苦悩しながらも何とかやりましたね。

林:その苦悩は見てて感じさせなかったですよ。「この人、何考えてるんだろう」というおもしろさがとても出てました。そうかと思うと、天才漫才師として徳永が見とれるほどのスピード感で演じなきゃいけないわけですよね。

次のページ