【南伸坊】「もっと絵を“楽しんで”ほしいですね」

 僕らの子どもの頃は、親が子どもに絵本の読み聞かせをするということが、一般的ではなかったので、絵本を手にとるようになったのは、中高生になってからです。自分が絵を描く立場で見てた感じです。今はないけど、東京・池袋駅東口に「新栄堂」っていう本屋さんがあって、そこの4階か5階のデザイン本売り場に『シナの五にんきょうだい』が飾ってあったのをよく覚えています。一目見て、この絵本の世界がすごく気に入っちゃって。絵もストーリイも好き。僕が作った『チャイナ・ファンタジー』も、この絵本の影響ですね。

『おだんごぱん』も好きな絵本です。元はロシア民話らしいけどストーリイは忘れちゃった。「絵」が好きなんですね。絵本って、ストーリイの持つ意味とか背景を語られがちですが、僕は、もっと「絵」そのものに目を向けてもいいと思うんです。「絵」本なんですから。絵をそのまま楽しむ、子どもは自然とそうしているけど、大人はなかなかそうできない。最近はある種類の絵本が流行すると、同じようなものばかりになるけど、出すほうはともかく、買うほうは「この絵いいな、好きだな」という感じで絵本を選んでほしい。

 いま、絵本がたくさん出てます。僕と同じイラストレーターも、新しい発想の絵本をたくさん描いています。子どもに大人気の長新太さんの『おじさんあそびましょ』とか、片山健さんの『ぼくからみると』とかが、僕の好みですね。イラストレーターが描く絵本なら、大人も手にしやすい。その中からお気に入りを見つけて、何度も見る。自分の好きな絵であれば、いつまで見ていても飽きませんから。

(文=鮎川哲也、工藤早春[本誌])

週刊朝日  2017年12月1日号