林:フェミナの外国小説賞を日本でただ一人おとりになり、作家なのに深夜放送のパーソナリティーをいくつも経験してるなんてすごい……。
辻:それって、ほめられてるような感じしないなあ(笑)。
林:いかに先端を行ってたか、ですよ。最近、映画はいかがですか。
辻:今年5月、「TOKYOデシベル」という新作が公開されました。そうそう、さっきフランスのトゥール・アジア国際映画祭から「コンペに選ばれた」と連絡が入りました。来年1月20日が上映会だと。
林:すごいじゃないですか。この前の「女性自身」のエッセーに、「そろそろ恋をしたくなりました」って書いてありましたけど、そっちはいかがなんですか。
辻:僕、58歳で再来年還暦だし、今ギックリ腰だし(笑)。
林:昔はもっとトガった人、というイメージでしたよね。
辻:今もトガってるんですけど、隠すことを覚えたんです(笑)。
林:最初はみんな嫉妬があったと思いますよ。人気ミュージシャンでありながら小説も書き、賞もとり、女優さんと次々に結婚し、そりゃ誰だって気に食わないですよ。
辻:それは社会の声ですか(笑)。
林:私は女だから「カッコいいな」と思うけど。
辻:一人になってから男性のファンが増えたんですよ。そういう生き方もあるんだと、シングルファーザー同好会を結成する話もあるんです。
林:すてきです。
辻:子どもがみじめな思いをするのは可哀想なので、凛としてシングルファーザーをやらなきゃ、と。
林:私、このあいだ初めてオペラの原作を書いたんです。フランス人の女の子が歌うアリアに、こんな歌詞を書いたんです。「パリで美しい女が町を歩くのがどんなに大変か。カフェ・フローラに行こうとすると、みんなが私を通せんぼするの。『お嬢さん、電話番号を教えてくれないと通さないよ』って」。
辻:フランスの男は、100人いたら100人がそれですから。男友達と歩いていると、「ちょっと待って」と言って急にいなくなって、すれ違った女性に電話番号を聞いてるんですよ。それで「あんないいコが目の前を通るなんて、一生に何回あると思ってるんだよ」と言って帰ってくる。その100メートル先でも同じことをやってますからね(笑)。フランス人は、女性を口説くことに関して世界一という自負があるんです。
林:イタリア人よりも?
辻:イタリア人よりも俺たちは成功率が高い、と思ってるみたいです。
(構成 本誌・直木詩帆)
※週刊朝日 2017年11月24日号より抜粋