鈴木おさむ/放送作家。1972年生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。多数の人気バラエティーの構成を手掛けるほか、映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍鈴木おさむ/放送作家。1972年生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。多数の人気バラエティーの構成を手掛けるほか、映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍
人にお金を貸すことについて考える(※写真はイメージ)人にお金を貸すことについて考える(※写真はイメージ)
 放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「お金の貸し借り」をテーマに送る。

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 人にお金を貸すことについて考える。人にお金を貸すということは、それまで培ってきた信頼を一瞬で破壊するパワーがあります。

 数年前、仕事仲間に結構なお金を貸しました。数カ月後に80%戻ってきましたが、あと20%は戻ってきていません。ただ、その彼は今でも僕と仕事をがっつりするパートナーで、僕が頼んだことやちょっと無理なことまで全力で向き合って仕事をしてくれます。

 彼が金銭的にピンチになったときに、僕が向き合ったことに感謝してくれているからこそ、僕の仕事に120%の力を見せてくれる。お金の貸し借りを一度でもしたら、もう元には戻れないと思っていましたが、僕と彼のように、前向きな、違う変化を見せることもあるのだなと気づけた。

 で。先日、いきなり知らない番号から携帯に連絡が来ました。出てみると、10年以上前に番号を交換した人、Mさん。Mさんの番号は自分の携帯からは削除されていました。30代の男性です。息が切れている。

 Mさんは言いました。「おさむさんが前に書いた本に、借金を返済したことを書いていましたよね?」と。

 20年以上前に、実家がいろんなトラブルに巻き込まれて、大きな負債を抱えることになったときに、僕も手伝って、借金を返したという話を書いていました。Mさんはその本を読み、深く感動したと。なぜか? Mさん自身が今、借金で火の車なんだと。そして家を追い出されてしまいそうなんだと。僕がお金を返していたのは90年代です。Mさんは僕が返済していたお金の状況を詳しく聞いてこようとします。「時代が違うので参考になりませんよ」と言うのだが、なかなか電話を切ってくれない。

 
 僕は家で作業中だったので、「仕事なんで、これ以上はごめん」と電話を切りました。

 彼と関係が深いならもっと話すべきなんでしょうが、10年前に仕事で一度会っただけ。電話を切りました。

 すると5時間後。彼から今度はショートメールが。

 そこには「おさむさん、先ほどは僕なんかの話を聞いてくれてありがとうございます」的な内容が。そしてその後に「家を追い出されそうなんで、おさむさんの家に間借りさせてもらえませんか?」と書いてあるのです。いやいやいや。仲良くない人を家に間借りさせるのおかしいでしょ。

 そしてその後に彼の一番言いたかったことが。「10万円貸してもらえませんか?」と。僕は「無理、無理、無理、ごめん」と書いて送りました。

 正直、知らない人から家に間借りさせてほしいとお願いされたことはおもしろいと思ってしまった自分もいますが。おそらく結構な人数の人に10万円の依頼を行っているんじゃないかと思いますが。

 人にお金を貸す・借りる。これを機会に、考えてみた。周りの人に本気でお金を貸してほしいと頼まれたときに、妻と子供がいる状況で、誰にお金を貸すことができるか。そして、もし自分がお金を借りるときに、誰に頭を下げに行くか?

 そうやって考えてみると、その相手との友情の深さや色が見えてくる。

 みなさんもシミュレーション、してみませんか?

週刊朝日 2017年11月17日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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