『八重歯は抜くもの』という欧米的概念を、早くに実践した日本のアイドルと言えば小柳ルミ子さんです。私が物心つく頃には、すでに整った歯並びでハイレグを着て歌い踊っていたルミ子さんですが、よく父親が「デビューした頃は八重歯が可愛かったのになぁ」と惜しんでいたのを覚えています。聖子ちゃんも全米デビューをするまでは、はち切れんばかりの八重歯を輝かせていました。ご両人ともアメリカン・ショービズの世界観を極めていったところを見ると、当時は『八重歯を抜く=国際的エンタティナーへの意思表示』だったのかもしれません。他にも河合奈保子・中森明菜・中山美穂、男性では少年隊のカッちゃんや中山秀征さんなど、八重歯は80年代アイドルに欠かせぬ要素(アイテム)でした。中でも好きだったのが、西武ライオンズのスター選手だった清原和博さんの八重歯です。これぞまさしく私が成り得なかった『花形男子』、そして持ち得なかった『陽気質』の象徴であり、「自分がなれない(なれなかった)男子像を好きになる」という今なお続く恋愛傾向を思い知らせてくれた存在でもありました。後に、黒々とした肌と真っ白に整列した歯を光らせて笑う清原さんを観た時、つくづく「成功した男には1ミリも惹かれないんだわ」と実感したものです。福山雅治さんもNEWS手越くんも今は昔。やはり私にとって20年来の『八重歯王子』にして『片思い候補』は、V6の森田剛くん以外にはいないと強く思う今日この頃。

 そして、もはや王子を通り越し『八重歯王』と呼んでも過言ではないのが関ジャニ∞の村上信五くんです。彼の屈託ない笑顔を見ていると『自分の富や成功は、やんちゃ性と庶民性と親しみやすさを貫いた先にある』という信念と、何かとてつもない『男子としての確固たる自信』みたいなものを感じてなりません。「別に歯並びなんか気にせんでも大丈夫なぐらいの『男の武器』が俺にはあんねん」という確信がそこにはある。是非ともこのまま『八重歯で天下』を! もはや村上信五の八重歯は90年代のマドンナの金歯と同一線上。

週刊朝日  2017年11月10日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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