「理屈や意味は後からでも理解できる。子どもは歌えるようになれば、苦労せずに覚えられるんです」

 さまざまな効果が期待できる童謡や唱歌だが、佐藤さんはどのようにして1万曲を達成したのだろうか。

「ゴールを設定したら、逆算して、1日の目標数を決めることです」

 佐藤さんは、1日15曲を目安として、予定によって調整した。その際、歌詞が書かれた「うたカード」を利用。歌い終わったらカードをプラスチックの箱に入れてカウントした。

 佐藤さんはまず、くもん出版の「母と子のうたカード」(1~3集)と、別売りのカセットテープを購入した(現在販売されているのは「CD付き童謡カード」)。うたカードの表面には絵、裏面には歌詞が書かれていた。それだけでは足りないので、佐藤さんはカードを手作りした。

「『日本の歌100選』や、安田祥子・由紀さおり姉妹の童謡集などを購入し、気に入った童謡は、くもんのカードと同じ大きさの紙を用意して、作りました」

 佐藤さんは、子どもの受験の際、暗記用のノートなど教材を手作りしてサポートした。「うたカード」はその原点といえる。

 最もこだわったのは、「親が歌う」こと。部屋や車の中で流したCDなどはカウントしなかったという。

「由紀さおりさんのCDを聴かせたこともありますが、プロの歌は上手すぎて、あまり反応しませんでした。BGMになってしまうようです。おなかにいるときから聴いているお母さん、お父さんの声だから、子どもの心に響き、内容が身につくんですね。『歌は得意じゃないから』と敬遠せず、ぜひ歌ってあげてください」

 実は、佐藤さんの夫は、子どもたちが好きだった「地下鉄」の音程をうまくとれず、必ずある所でずれてしまった。それを直すために、夫はカードの歌詞の部分に音程が「上がる」「下がる」など記号を書き込んでおいた。

「それでも、主人は間違えた(笑)。でも、いい思い出なんです。『パパはここでよく半音ズレてたよね』と子どもたちの間で語り草になっています」

 実は、佐藤家のリビングにはテレビがなく、童謡は日常生活に自然に溶け込んでいたそうだ。家の中なら歌声は聴こえているので、子どものすぐそばにずっといる必要はなかった。

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