その2曲はGLIM SPANKYというユニット名の“GLIM”にあたる幻想性をさらに奥深く追求したものだが、松尾は“趣味丸出し!”と語る。もともと松尾にとってサイケデリック・ロックをきっかけに出会った、アートなども包括したサイケデリック・カルチャーこそが精神性や創作の原点になったという。ヴィジュアル面での執着もそんなことに由来する。

 もっとも、聞き手の理解を考え、デビュー以来、ロックやブルースなどを主体に、まずはロック・バンドとしての存在をアピールしてきた。

 3作目となった『BIZARRE CARNIVAL』で、松尾は60年代のサイケデリック趣味を全開にした。亀本はその系譜にある昨今の英米のバンド、アーティストにも目を配り、柔軟で多彩なスタイルによるギターだけでなく、シンセ、パーカッションやSEも駆使。松尾のアイデアも採り入れてバック・トラックを制作した。

 懐古的ではなく“今”という時代を反映した新たな解釈による多面的なサイケデリック・ロックを目指し、それを具現化した。

 新旧の音楽的要素が混在したミクスチャー的センスは、松尾、亀本の双方が持ち合わせ、大事にしているものであり、GLIM SPANKYの音楽性の大きな特徴となっている。

 ユニット名の“SPANKY”に由来する攻撃的なロック・ナンバーで、“曲がらない 信念を握りしめて”と歌う「吹き抜く風のように」や、自然回帰を訴えたビート・ジェネレーションへの共感を込めた「ビートニクス」、「アイスタンドアローン」での明解な主張は、デビュー以来のものだ。また、“GLIM”に由来する幻想的な趣は、重くうねるダークなサウンドにサイケ色を加味した「Velvet Theater」、フォーキーな「白昼夢」から見いだせる。

 本作では、ロック・ナンバーでの松尾のしゃがれ声交じりの気迫のこもったシャウトもさることながら、ポップなバラード・ナンバーの「美しい棘(いばら)」での丹念な歌唱の説得力も印象深い。

 GLIM SPANKYは本作で大きな飛躍を遂げた。(音楽評論家・小倉エージ)

●『BIZARRE CARNIVAL』初回限定盤=CD+DVD「GLIM SPANKY 野音ライブ 2017」(ユニバーサル TYCT-69116)/通常盤=CD(同 TYCT-60107)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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