津田大介「図書館は出版社の敵なのか」
連載「ウェブの見方 紙の味方」
データだけ見れば図書館の存在が出版業界に悪影響を与えている面はないという単純な話なのだが、この問題がこじれるのは図書館側にも原因がある。「複本」問題だ。
ベストセラー作品が世間で注目されると、貸し出しの予約が一つの図書館に何百件も入る。このニーズに応えるため図書館側がベストセラーを1冊ではなく、複数購入することを「複本」という。図書館の中にはベストセラー本を20冊以上仕入れるようなところもあり、この行為が出版社を刺激している。
図書館側にも複本をする理由がある。行政から「数字」を求められたときに「貸出数」が一つの基準になるため、ベストセラーを複数購入して結果を出し、予算を削られないようにする側面もあるのだ。
解決策はないのか。一つのヒントになるのは雑誌の月額読み放題サービス「dマガジン」だ。月額400円で、登録されている雑誌が読み放題になる同サービスはスマホ世代を中心に爆発的に普及している。雑誌によっては、コンテンツを提供することで年間数千万~数億円の収入になっている。
図書館型(読み放題)の電子書籍サービスをユーザーに提供することで、人気の本を図書館で何カ月も待つよりすぐに読みたい読者のニーズをくみ上げ、収益につなげていく施策が必要ではないか。
いま、出版社に求められているのは、図書館を敵だと思うことではない。図書館が広げた読者の裾野を、デジタル技術を使って収益にどうつなげていくか真剣に考え、試行錯誤していくことだ。
※週刊朝日 2017年11月3日号
津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)