佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ。元外務省主任分析官。近著に『希望の資本論』(池上彰氏と共著、朝日文庫)、『悪の正体』(朝日新書)など
佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ。元外務省主任分析官。近著に『希望の資本論』(池上彰氏と共著、朝日文庫)、『悪の正体』(朝日新書)など

 血税635億円もかけた衆院選自民党が283議席(追加公認含む)と大勝、公明党とあわせて全議席の3分の2を上回る勢力となり、憲法改正の発議が可能となった与党。作家の佐藤優氏は、安倍圧勝の中でも一部では「民主主義」は機能していたと分析する。

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 安倍首相が秋葉原でリベンジ街頭演説し、大勝利とは漫画みたいですね。でも、自民党が勝っても僕は心配することはないと思っています。安倍首相が憲法改正を進めようとすれば、いずれまた総選挙をやらざるを得なくなる。そもそも民意と極度に乖離した選挙結果は、有効性を持ちえない。それなのに何でもありになっている。

 例えば、30センチの物差しがあるとしましょう。今回の選挙で自民党、希望、維新など多くの政党が右側約5センチに入っている。左側の約5センチには共産党。立憲民主党も左とみられているが、僕からみれば、右から10センチぐらい。所属議員らの安保法制、沖縄・辺野古問題の発言をみると疑わしい部分がある。ど真ん中に位置するのは公明党かな。民意というのは両端の5センチにはなく、真ん中辺りにある。右端にいる政治家たちが憲法改正の発議をしても、国民投票にかければ、負ける可能性が高い。公明党の山口代表は「改憲を急ぐ必要はない」と記者会見などで釘を刺していたので、改憲しようとすれば、必ず政局になる。安倍晋三首相はポピュリズムの人だから本当にやり通せるのか、疑問です。今回の選挙で自民党が選ばれたからといっても消極的選択でしかない。もうすぐ森友事件の裁判も始まるので、財務省、安倍昭恵氏の関与が再び、蒸し返されてすぐに支持率は落ちるでしょう。改憲で党内政局になれば、いずれ、持たなくなるのではないか。

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