あのころ、街角や郊外にはエロ本専門の自動販売機があった。昭和52年1月に警察庁が調べたところ、全国の自販機は約1万台。最も多かったのが東京都で約2800台。次いで神奈川県が約980台、大阪府が約960台あった。一般の書店で売られる雑誌や書籍の流通とは全く関係のない別組織が販売を仕切っていたらしい。その自販機本も、ビニ本の登場の影響で衰退していく。

 ビニ本が普及した背景には、昭和50年創刊の「月刊プレイボーイ」があるだろう。本家米国版「プレイボーイ」の創刊から20年以上の歳月を経て、日本にも本格的な(?)ポルノブームが到来。社会現象としてマスコミが大きく取り上げた。80年代後半には在京の大手出版社もアダルト誌を続々刊行する。

 そして時代は昭和から平成に。ついに歴史的な事件が起きる。平成3(1991)年に発売された写真集『ウォーター・フルーツ』(篠山紀信撮影、朝日出版社)である。モデルは女優の樋口可南子。モノクロームの撮影で、一部にヘアが写っていた。20万部以上刷られ、写真集としては異例の売れ行きとなった。

 当時の朝日新聞の記事が興味深い。「わいせつかどうかは社会の受けとめ方を見ながら判断する」と警視庁のコメントが出ている。有識者に意見を求めながら検討を重ねた結果、【1】この程度の内容は世間で受け入れられる傾向にある【3】芸術性が認められる【2】青少年向けの本ではなく、読者層が限られている──などの理由で、わいせつ罪での立件は見送った。“ヘア解禁”の重大なジャッジだった。

 ただ、「わいせつ性は強く、刑法に触れる疑いは残る」との見解で一致。編集責任者を呼んで「同じような写真を再度発行すれば摘発の対象になり得る」と口頭で警告し、反省を促したそうである。

 風俗をめぐる取り締まり当局と業界との緊張関係はいまも昔も変わらない。

週刊朝日 2017年10月20日号