街角に立つ成人向け週刊誌の自動販売機=1977年、朝日新聞社(c)朝日新聞社
街角に立つ成人向け週刊誌の自動販売機=1977年、朝日新聞社(c)朝日新聞社

 社会風俗・民俗、放浪芸に造詣が深い、朝日新聞編集委員の小泉信一氏が、正統な歴史書に出てこない昭和史を大衆の視点からひもとく。今回は「ビニール本」。

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 なぜビニール袋に入っているのだろう──。

 不思議に思いながらも、雑誌を覆うビニールをはがすときのドキドキ感はいまも忘れられない。

 正直に告白する。小生がビニール本(以下ビニ本)を初めて買ったのは、昭和56(1981)年である。大学1年のときだった。なぜか浅草まで足を運んだ。勇気を振り起こして「大人のおもちゃ屋」(今も健在の店)に入った。

 購入するとすぐに帰宅し、いそいそと本を開いた。かなりきわどく、刺激的なヌード写真。それがドーン、ドドーンと、どのページにも掲載されていた。スケスケの白い下着。その下には、なんとなく黒い「モヤモヤ」もあった。インターネットで過激な映像を手軽に見ることができる今の時代からすれば、「悠長」というか「牧歌的」というか、のどかな時代だった。ノーパンの写真もあったが、肝心のところには黒く修整を施してあった。

「歯磨き粉を使えば、きれいに落ちる」。友人がそう教えてくれた。さっそく試してみると、修整が消えるどころか、紙が破れてしまった。友人はわざとウソをついたのだろうか。変な勘ぐりをしてしまったが、プラスに解釈すれば青春のほろ苦い思い出でもある。

 前置きはここまで。今回はビニールに入れられたアダルト本、すなわち「ビニ本」について解説しよう。

 ルーツはいつ、どこにあるのか。発祥は本の街、東京は神田の神保町といわれる。昭和50年代から一部の古書店に出回り、昭和54(1979)年に爆発的なブームが起きたとされる。本を丸ごとビニールで包装する商法は、立ち読み防止のため。業界では「袋物」とも呼ばれた。実際はポリエチレン製なので、「ポリエチレン本」と呼んでも良かったのかもしれないが、語呂が悪かったのだろう。

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