「お酒以外にもソフトドリンクや健康ドリンクなどに混ぜる手口も少なくありません。なかには堂々と、睡眠薬の錠剤を『健康食品だよ』と説明して飲ませる犯罪者もいると聞いています」(清水教授)

 果たして、レイプ・ドラッグの加害者は、特殊な人たちなのだろうか。

「普通の生活を送る人たちも加害者になり得る」

 そう話すのは「にれの木クリニック」(東京都杉並区)の長井チヱ子院長だ。

 来院した由香さん(仮名)は、26歳だった11年にレイプ・ドラッグの被害に遭った。会社の男性上司3人や同僚の女性と飲み会に行き、1軒目で意識を失った。気づくとラブホテルで全裸にされ、2人の上司にもてあそばれていた。翌日には、婚約者と病院を受診し、警察に被害届も出した。レイプ・ドラッグの可能性を訴えたが、病院も警察も薬物検査をしなかった。

 長井院長によれば、当初、2人は犯罪行為を認め謝罪した。だが、会社が2人に弁護士をつけると態度は一転。「由香さんが誘った」「性的倒錯者」とポルノ雑誌まがいの創作話を提出してきた。会社側は社内全員に「由香さんは仕事にもだらしない人間」などといった内容の意見書を書かせて裁判所に提出した。

「民事では4年かけて画期的な勝利判決を得た。でも、あのとき、薬物検査ができていればあれほど長い間苦しまなかった、と悔やまれてなりません」(長井院長)

 先の清水教授は、被害者はすぐに警察に行き、警察は「記憶がない」と口にした被害者の尿や血液で薬物検査をし、犯罪の証拠を確保すべきだと訴える。だが、犯罪に使用される薬物のうち警察署の検査キットに反応しない種類が主だといい、「科捜研レベルでの分析が必要です」(清水教授)。

 由香さんも冒頭の美樹さんも事件後に深刻なPTSDに苦しみ、仕事も辞めざるを得ない状況に追い込まれた。美樹さんが言う。

「事件に遭ったときは、27歳。いまは29歳になってしまった。結婚に仕事にと一番輝けたはずの2年を奪われたのです」

 幸せな将来を信じていた女性が、ある日突然事件に巻き込まれた。決して「特殊な世界」の話ではない。(本誌・永井貴子)

週刊朝日 2017年10月20日号