ADHDは、脳の前頭葉で神経伝達物質のドーパミン、ノルアドレナリンのはたらきが弱いために注意力が低下すると考えられ、これらの作用を高める薬が使われている。一方、ASD特有の症状を改善する薬はない。浜松医科大学病院の山末英典医師は、「将来的にホルモンの一種であるオキシトシンが初のASD治療薬として認可される可能性があります」という。

「ASDの方々が対人関係を苦手とする理由の一つには、相手の表情や声色から言外の気持ちをくみ取ることが難しいことが挙げられます。ファンクショナルMRIなどを用いて解析した結果、ASDの方々はこうしたはたらきを担う脳の内側前頭前野の活動が低下しており、オキシトシンを投与することにより、その活動が高まることがわかりました」(山末医師)

 女性にASDが少ない理由にも、女性に豊富ではたらきやすいオキシトシンが関わっている可能性があるという。オキシトシンは注射薬として分娩誘発などの目的で使われてきたが、ASDの治療に用いる場合、薬液をスプレー状にして鼻から吸入する。

 山末医師らはオキシトシンが1回投与、6週間投与のどちらでも内側前頭前野の活動を高め、相手の表情から気持ちを察することができるようになるなど、対人関係の改善に役立つことを確かめた。

 この結果に基づき、山末医師が責任者となって東京大学、金沢大学、福井大学、名古屋大学で連続投与の有効性・安全性を検証する臨床試験をおこなった。さらに、浜松医科大学が中心となって全国規模で治験をおこなう。今後、有効性・安全性が確認されれば、近い将来、「オキシトシン点鼻剤」が初のASD治療薬として認可される。

 一方、山末医師は次のように注意を呼びかける。

「海外ではオキシトシン点鼻剤が授乳促進などの目的で市販されており、日本でもネットで個人輸入するなどして不適切に使用される可能性があります。この薬は有効性・安全性が検証されている段階であり、特に長期に使用した場合の副作用は未知数です。自己判断での使用は厳禁です」(ライター・小池雄介)

週刊朝日 2017年10月20日号