帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
朝粥が消化によくて、体にいいのは間違いない(※写真はイメージ)朝粥が消化によくて、体にいいのは間違いない(※写真はイメージ)
 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。帯津氏が、貝原益軒の「養生訓」を元に自身の“養生訓”を明かす。

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【貝原益軒養生訓】(巻第三の66)
朝早く、粥(かゆ)を温(あたたか)に、やはらかにして食へば、腸胃をやしなひ、身をあたため、津液(しんえき)を生ず。寒月尤(もっとも)よし。是(これ)、張来(ちょうらい)が説也。

 養生訓では、朝粥を勧めています。

「朝早く、粥を温かにやわらかくして食べると、胃腸をやしない、身をあたため、唾液が豊富に出る。寒月がかかる頃が特にいい」というのです。

 さらに「これは張来の説である」と続きます。張来は蘇軾(そしょく)の門下生で北宋の詩人です。張来に寒月の頃の朝粥の詩があるのかもしれないのですが、よくわかりません。いずれにしろ、朝粥が消化によくて、体にいいのは間違いないでしょう。

 曹洞宗の開祖、道元が修行僧に食事の作法を示した『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』には粥の10の効用を説明した「粥有十利(しゅうゆうじり)」という項目があります。以下のようなものです。

【1】(血色をよくする)【2】力(力がみなぎる)【3】寿(寿命を延ばす)【4】.楽(食べ過ぎず体が楽になる)【5】詞清辯(ししょうべん=ことばがはっきりする)【6】宿食除(胸やけが治る)【7】風除(風邪をひかない)【8】飢消(飢えをなくす)【9】渇消(のどのかわきをいやす)【10】大小便調適(便通がよくなる)

 まさにいいことだらけです。ですから、曹洞宗の永平寺などでは、朝はもっぱらお粥なのでしょう。

 がん診療に中国医学を取り入れようと私が35年前に開設した帯津三敬病院では、当初から薬膳の粥である漢方粥を患者さんに提供してきました。看護師や栄養士が一丸となって最初に作り上げた漢方粥は「八宝粥」でした。米、小豆、ささげ、大豆、いんげん豆、れんこん、山いも、緑豆が材料です。

 
 その後、バリエーションが増え「枸杞子(くこし)粥」「山薬粥」「れんこん粥」「緑豆粥」「はと麦粥」「きくらげ粥」「ゆり根粥」「小豆粥」を作るようになりました。さらに、玄米ご飯と玄米粥もメニューに加わりました。

 私自身、お粥は好物なのです。小中学校の頃は体が弱くて風邪をひいては学校を休んでいたのですが、そのときに食べるのが、卵とじのおかゆさんでした。年を経るにしたがって、風邪をひくことはなくなったのですが、一方で、子どもの時は特に旨いとも思わなかったこのおかゆさんが、だんだん好きになってきたのです。

 特に春の七草粥が好きです。病院開設以来、1月7日の朝の給食は七草粥と決まっています。すなわち、芹(せり)、薺(なずな)、御形(ごぎょう)、はこべ、仏座(ほとのけのざ)、菘(すずな)、蘿蔔(すずしろ)の七草が入ったもので、おいしいですね。あの塩気がたまらなく好きです。1月7日の朝は病院の給食を逃さないようにしています。

 益軒はこうも説いています。「冬、朝(あした)に出(いで)て遠くゆかば、酒をのんで寒をふせぐべし。空腹にして寒にあたるべからず。酒をのまざる人は、粥を食ふべし。生薑(しょうが)をも食ふべし。陰霧(いんむ)の中、遠く行(いく)べからず。やむ事を得ずして、遠くゆかば、酒食を以(もって)防ぐべし」(巻第六の25)。酒と粥を並べて語っているところが、いいですね。

 私は奈良の朝食に出る茶粥も大好きなんです。これには生ビールがよく合います。益軒先生はどちらかを食うべしと言っていますが、粥と酒、最高の組み合わせです。

週刊朝日 2017年10月13日号

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帯津良一

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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