田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社
ジャーナリストの田原総一朗氏は「希望の党」代表に就任した小池知事に「すごい」と驚く(※写真はイメージ)ジャーナリストの田原総一朗氏は「希望の党」代表に就任した小池知事に「すごい」と驚く(※写真はイメージ)
 都知事選でも“何ものにも勝るビジョン”となって都民ファーストの会を圧勝に導いた小池百合子東京都知事。ジャーナリストの田原総一朗氏は「希望の党」代表に就任した小池知事に「すごい」と驚く。

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 安倍晋三首相が臨時国会の冒頭で衆院を解散すると表明した9月25日、小池百合子東京都知事が「希望の党」の代表に就任すると発表した。「希望の党」は若狭勝氏と、細野豪志氏など民進党を離党した議員たちを中心に結成されることになっていたが、前原誠司代表の民進党と票を食い合い、結果として安倍首相の自民党が有利になるとみられていた。安倍首相自身、内閣支持率も回復する中、民進党から次々に議員が離党し、若狭氏、細野氏らの新党の立ち上げも確たる見通しがつかないので、今こそチャンスだと考えたのだろう。

 だが、小池都知事が代表になると宣言したことで、一挙に大きな流れが生じた。小池都知事は26日夜、前原代表と極秘会談をし、両者は「合流」で合意したようだ。

 小池都知事は27日に「日本をリセットするために党を立ち上げた」と、笑顔ではあるが強い語調で言った。彼女が代表になると宣言した瞬間から、テレビも新聞も小池一色となった。安倍首相の存在はすっかりかすんでしまった。「希望の党」のビジョンはよくわからないが、小池都知事の存在自体がビジョンになっているのだ。彼女の勝負勘はすごい、とつくづく思う。

 都議選のとき、都民ファーストの会にビジョンらしきものはなかった。小池都知事は東京をどんな都市にするか、具体的な政策らしきものを示さなかった。もっとも、ブラックボックスであった東京都を透明にしたという彼女の功績は、私は認めている。その彼女が率いることで、実績もなく、どんな人物かもわからない候補者がなんと49人も当選した。小池都知事の存在が、何ものにも勝るビジョンとなったのだ。最大勢力だった自民党は23議席と惨敗し、民進党も5議席と、自民党につき合って惨敗した。

 
 衆院選では、小池都知事を軸に前原氏の民進党も、小沢一郎氏の自由党も融合するのであろう。そして彼女自身、都知事を辞任して出馬するのではないかとみられている。

 これまでは少なからぬ有権者が、安倍自民党に不満を抱きながら、受け皿となる党がないため、やむなく自民党に投票してきた。ところが、突如、小池新党という受け皿が出現した。これは、自民党にとって脅威であり、小池新党は都議選と同じ程度の議席を新たに獲得する可能性がある。ということは、自民党がそれだけ議席を失うことになるわけだ。

 それにしても、安倍首相はなぜ、解散の理由を説明しなかったのか。

 前回も記したように、11月のトランプ-習近平会談が決裂した場合、米国が武力行使に及ぶ恐れがある。安倍首相は、それ以前にしかるべき体制を整えるため、早く選挙をしたいと考えていたはずである。何人もの側近から聞いていた。

 だが、解散の理由として、2019年10月に消費税率を2%引き上げて、子育て世代への投資拡充にあてると強調した。こんなことは解散などしなくても、国会で審議して決めればよい。それに前原氏の提案と酷似していて、パクリだとさえ批判されている。なぜ、彼自身が考えていたはずの「理由」を説明しなかったのか。どうやら側近の一人に、そんなことを言うと国民から危険視されると「忠告」され、従ったようだ。そのために、何のための解散なのか、わからなくなってしまった。わざわざ小池新党への流れを強める役割を演じたのではないか。

週刊朝日 2017年10月13日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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