津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
津田氏が米大統領選でフェイクニュースを量産したマケドニアの今を語る(※写真はイメージ)津田氏が米大統領選でフェイクニュースを量産したマケドニアの今を語る(※写真はイメージ)
 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米大統領選でフェイクニュースを量産したマケドニアの今を語る。

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 昨年の米大統領選期間中、広告料を目的としたフェイクニュースを街ぐるみで大量生産し、話題となったヴェレス。欧州の小国・マケドニアにあるこの街の現在を伝えるリポートが、CNNのサイトに掲載された。

 大統領選でフェイクニュースを拡散させた「張本人」として、多くの非難を受けたフェイスブックとグーグルのIT大手2社は、今春から不正な活動を行うフェイクアカウントの取り締まりを強化している。

 ヴェレスで日夜フェイクニュース作りにいそしんでいた若者たちもその影響を受け、フェイスブックで次々にアカウントが凍結された。彼らはトランプ支持者が集まるフェイスブックページに記事を投稿したり、フォロワーを増やしたりすることでフェイクニュースを拡散していたが、今回の措置でそのような行為ができなくなった。

 グーグルもフェイクニュースサイトへの広告提供を停止し始めた。両社の対応により、ヴェレスの若者たちは拡散手段と収入源を一挙に断たれてしまったのである。

 現地のニュースメディア「バルカン・インサイト」は、フェイクニュース作成で年間数百万~数千万円の収入を得ていた彼らがパニックに陥ったことを伝えている。事態を受けて「フェイク」ではないウェブサイトの運営に乗り換える人間も出てきたが、得られる収入は以前に比べればはるかに少なく、一獲千金の夢を捨てきれない若者も多いという。

 
 記事中「フェイクニュースのパイオニア」を自称する24歳の男性が記者に語った内容も興味深い。彼のアカウントは対策強化によって凍結されてしまったが、最盛期には2人の米国人ライターを含む15人のスタッフを雇い、フェイスブックで150万フォロワーを集めていた。現在照準を2020年の米大統領選に定め、戦略を見直し再起を図っている最中だ。再スタートしたフェイクニュースサイトは、既に1日2500ドル(約28万円)の収益をあげているという。

 対策が強化される一方で、それをかいくぐる手法も進化している。通常、フェイクニュース運営者は拡散用に多数のフェイスブックアカウントを取得しているが、新たに取得しようとしても、複数アカウントの取得を禁じるフェイスブックに即座に凍結されてしまう。そこで、子どもたちから「本物」のフェイスブックアカウントを2ユーロ(約260円)で買い取り、名前やプロフィルを米国人風に変更して拡散に利用しているそうだ。

 ユーゴスラビアからの独立以降、停滞する経済に悩むマケドニアにとって、フェイクニュースは「新たな産業」として注目される存在だ。ヴェレスのスラブチョ・チャディエフ市長は世界中から非難の声が寄せられてもどこ吹く風。「政治に道徳も不道徳もない。すべてが許されている」と地元の若者を擁護している。

 IT業界や広告業界が本気でこの問題に取り組まない限り、フェイクニュースはなくならない。マケドニアで起きていることは、全世界でも同時並行的に起きていることだからだ。

週刊朝日 017年10月6日号

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津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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