「水商売」の母親が少なくない北海道の保育所は、設立の背景が興味深い。当時の市長が認可の夜間保育所の設立を公約に掲げて当選したのがきっかけだという。

 夜間の認可保育所からはじかれる親子がいるのも現実だ。

「認可保育所への申し込みには、自治体への書類提出が必要だ。しかし、風俗店やキャバクラで働く親の場合、店が就業証明書を出さず、自分で書類を書くことが面倒だと感じてしまうこともある」(同)

 結果、手続きの簡単な無認可の保育所に風俗や水商売の親の子どもが集まりやすい。

 映画にも登場する、歌舞伎町の認可外保育所「たいよう保育園」の木村正章副園長(31)がこう話す。

「うちに子どもを預ける親は、風俗嬢やキャバクラ嬢、チャイナクラブに勤める母親がほとんどです。中国やアジア系の子どもも多く、『区役所から紹介された』と言って来日直後の外国人も訪ねてきます」

 現在通うのは0歳から小学校5年生まで28人。深夜まで経営する学童保育所は極めて少ない。そのため、放課後から通う卒園児もいる。

「昼の保育園や小学校が終わるとうちに来て朝まで過ごす。まるで園に住んでいるような子もいますよ」(木村副園長)

 夜9時半を回ったころ、0歳児と小学生を預ける両親が現れた。木村副園長が記者に耳打ちする。

「迎えに来るのは、2日後ですよ」

 園は2泊3日以上預ける親は育児放棄する可能性が高いとして、区に連絡する。放っておけば預けっぱなしの親が出るからだ。この園では、木村副園長や職員が親代わりだ。木村副園長は子どもと一緒に小学校の体育着を買いに行き、学校の担任から電話を受けることもある。

 小学5年生の女の子は、「ピアノの発表会や授業参観に、お母さんの代わりに保育園の先生が来てくれた」と無邪気に話す。

 すべてボランティアだ。木村副園長がつぶやいた。

「認可外の保育所はひどい場所だと偏見も強い。でもね、自宅にひとりで過ごせば、ご飯も食べられず、危ないこともあるかもしれない。それよりは、ここにいてくれたら、それでいいと思うんですよ」

 明かりの消えたカーテンの向こう側から、スースーと小さな寝息が聞こえてきた。(本誌・永井貴子)

週刊朝日 2017年10月6日号